治療用アプリが保険適用、できつつある「デジタル医療」市場の行方
国内で2例目となる治療用アプリが保険適用となり、新たにデジタル医療(デジタルセラピューティクス、DTx)市場ができつつある。スマートフォンやタブレット端末といったデジタル機器が幅広い年齢層に普及し、治療用アプリの利用拡大を後押しする。治療用アプリは開発費が低く抑えられることも特徴だ。製薬企業が新規事業として注目するほか、医療系ベンチャーによる開発も活発化している。(安川結野)
近年、ウエアラブル端末や人工知能(AI)を健康管理に活用するデジタルヘルスの取り組みが進んでいるが、中でも疾患の治療に焦点を当て、臨床試験で治療効果を実証し、厚生労働省など各国の規制当局が承認したものが治療用アプリだ。
特に海外で実用化が進んでいる。ドイツではうつ病やパニック障害といった精神疾患領域を中心に12の治療用アプリが保険適応となるほか、欧米では糖尿病の治療用アプリが認められ、既に利用者は数万人にものぼる。こうした広がりを受け、DTxの世界市場は今後5年で数兆円に成長するとされる。
日本では現在、キュアアップ(東京都中央区)の「キュアアップ SCニコチン依存症治療アプリおよびCOチェッカー」と「キュアアップHT 高血圧治療補助アプリ」のみが承認されている。まだ利用は少ないものの、佐竹晃太キュアアップ社長は「(キュアアップHTの保険算定価格について)産業育成の意味も含め、高く評価してもらった」と話す。
キュアアップHTを6カ月間使用すると、3割負担の場合、使用料は1万5360円。治療用アプリは数百円程度の保険点数が妥当という意見もあった中、治療効果や海外事例を根拠に事業として成立する価格が認められ、DTxが産業として日本でも成長する可能性が示された。
治療用アプリは医薬品と比較して開発費が抑えられるため、DTx市場への参入ハードルは低い。医薬品の開発費は1000億円以上といわれるが、治療用アプリの場合は数十億円で済む。また医薬品の場合、化合物の探索などに時間を要すため収益化まで時間がかかるが、治療用アプリはソフトウエアの設計など開発の時間も医薬品と比較して短い。
市場成長や事業化の可能性の高さから、大手製薬企業からベンチャーまでDTx市場への参入に注目が集まる。アステラス製薬が糖尿病治療用アプリの開発を手がけるほか、サスメド(東京都中央区)が2月に不眠障害治療を目的とした治療用アプリの承認申請を行った。キュアアップも慢性心不全やアルコール依存症などを対象に開発を進めており、治療領域が広がれば国内でも新たな治療法として定着しそうだ。