ニコチン依存にうつ病やがんまで、「スマホアプリ」は第3の治療法になるか

キュア・アップ、世界を狙う

 キュア・アップは、医薬品でも医療機器でもない、新しい治療法「治療用アプリ」の創出を目指すメドテック(医療×IT)ベンチャー。呼吸器内科医の佐竹晃太社長と、同じく医師でプログラミング技術を習得した鈴木晋最高デジタル責任者(CDO)が起業した。佐竹社長は「治療用アプリというソフトウエアで、病気に効果のある第三の治療法を実現する」と意気込む。

 現在の医療では医療機器を使った処置と医薬品の服用が2本柱だが、2013年に成立した医薬品医療機器等法(旧薬事法)から「治療用アプリ」は臨床試験・治験を実施した後、国から承認を得ることで保険適用され、病院で医師が処方することが可能になっている。佐竹社長は「アプリを臨床試験で使用した結果、薬と同等の治療効果があることを確認している」と強調する。

 キュア・アップではニコチン依存症、高血圧、非アルコール性脂肪肝(NASH)の治療用アプリを開発する。特にニコチン依存症向け治療用アプリは臨床試験・治験を終え、承認を得るための申請をしている段階。19―20年内の承認が期待される「禁煙向け治療用アプリの治験実施は日本では初めて。同アプリが承認されればグローバルでも初になる」(佐竹社長)と期待を寄せる。

 治療用アプリは医師が発行する処方コードが必要だが、一般的なアプリストアから患者がスマートフォンなどにダウンロードする。患者は日々の経過や薬服用に関する状況を入力すると、クラウドシステム内のアルゴリズムが解析・判断し、患者に合った治療ガイダンスを提供する。医師に受診するまでの治療空白期間を埋められる。「薬と比べ開発コストは圧倒的に低く、副作用は考えない。医療財政の観点からも価値が高い」(同)とする。

 治療用アプリは生活習慣病や鬱(うつ)などへの利用が期待されるが「がん治療の可能性も出てきた」(同)という。同社は21年までに新たに五つのアプリを開発し、臨床試験を開始したい考えだ。

:日刊工業新聞2019年9月18日



医師に代わり継続的に指導


 米国食品医薬品局(FDA)は、七つの医療機器を2018年を代表する画期的な承認として紹介している。そのうち三つはソフトウエア医療機器で、18年がソフトウエア医療機器にとって重要な年だったと言えよう。「Viz.AI Contact」「IDx―DR」の二つの人工知能(AI)による診断支援システムについては本欄で紹介済みだ。残る一つのソフトウエア医療機器は、病気の治療を支援するスマホアプリだ。

 18年12月、FDAは米国のPear Therapeuticsの開発した治療用処方アプリ「reSET―O」を承認した。reSET―Oは、鎮痛剤として使われるフェンタニルなどによるオピオイド中毒患者がオピオイド依存から離脱するためのトレーニング、モニタリング、リマインダー機器として患者の治療を支援する。

 治療用処方アプリは、医師が医薬品と同じように処方するスマホアプリだ。医師からreSET―Oの処方を受けた患者は、販売会社に連絡すると、担当者からの説明とパスワードを受け取る。患者は自分のスマホにreSET―Oをダウンロードし、パスワードを用いて起動する仕組みだ。

 通常、医師の指導は通院時のみに行われ、次の診察まで空白期間が生じる。ここで気が緩み、医師からの指導を守らず病気が悪化する可能性が出てくる。この空白期間を埋めて、医師に代わって継続的な指導を行うのが治療用処方アプリだ。

 これまでも、ソフトウエアが、臨床現場で治療目的に用いられる例はあった。しかし、コストをかけてそのソフトウエアの有効性を証明しても、似たようなソフトウエアの出現により商業的利益を得ることができなかった。FDAが、ソフトウエアを医療機器として認めたことにより、風向きが変わった。

 治験を行い、有効性を証明したソフトウエアのみが医療機器として販売を承認される。治験データは保護され、他社が使用できない。また、医薬品と同じように医師が処方することにより、医療保険や医師への報酬の仕組みなど、これまでの医薬品ビジネスの仕組みがそのまま利用可能となる。

 日本でも、治療用処方アプリ開発の動きが広がっている。19年1月、大塚製薬は、米国のクリックセラピューティクスの大うつ病性障害のための治療用処方アプリの開発と販売に関するグローバルライセンス契約を締結した。

 また、日本の治療用アプリ開発企業キュア・アップは、慶応義塾大学医学部とニコチン依存症治療用アプリ、東京大学医学部と非アルコール性脂肪肝炎治療用アプリ、自治医科大学と高血圧治療用アプリの開発を行っている。ニコチン依存症治療用アプリ「CureApp禁煙」に関しては治験を進め、19年中での厚生労働省による承認を目指している。

 禁煙は医師が介在しても7割が失敗するという。日常的に使用するスマホを用いて、禁煙継続率が向上すれば禁煙したい喫煙者にも医療行政にも朗報だ。医薬品には副作用はつきものだが、治療用処方アプリには副作用の懸念が少ない。今後、多くの治療用処方アプリが開発されるだろう。
(文=旭リサーチセンター主幹研究員・毛利光伸)

日刊工業新聞2019年3月14日


                

  

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