トポロジー最適化、AR・VRなどの技術を応用したモータ磁気設計の最新動向
電気的エネルギーを機械的エネルギーに変換する役割を担うモータは、昨今のEV化では重要な機器の一つとなり、FA製品など機電一体製品の製造においても要となる。モータ設計はトポロジー最適化、磁場の可視化で最適設計ができる。
機械設計10月号では、モータ磁気設計について特集しており、さまざまなトポロジー最適化による無駄のない手法から実機検証、AR・VRなどの技術を応用した最新の可視化手法について解説した。その解説記事の抜粋を以下に紹介する。
解説1 モータ設計へのトポロジー最適化技術の適用
計算機の性能進化に伴い、モータ設計は大きくその形を変えてきた。例えば、トポロジー最適化と呼ばれる、設計パラメータに依存しない最適化法を用いることで、モノづくり視点の制約を排除した自動磁気設計法を実現している。筆者も、IPMモータ向けにトポロジー最適化技術を開発しており、トポロジー最適化は次世代磁気設計法として、多くの注目を集める有用な手法である。
一方、トポロジー最適化は、その設計自由度の高さから、得られる形状が複雑になりやすいという課題がある。特に、On/Off法を用いたトポロジー最適化法では、形状境界が凹凸状になる、多孔性の形状が得られるなど、有効な磁気構造を獲得しても、現実的に製造が困難であった。本稿では、最新設計技術である、トポロジー最適化法について、その手法論を記述する。
解説2 回転機のトポロジー最適化と木探索を活用した自動設計法
モータをはじめとする回転機の設計には対象の機器に関する多くの知見と経験が必要である。さらに、複数の要求を満たしたうえで性能を極限まで高める最適設計を実現するには、膨大な試行錯誤的検討を要する。このように回転機の設計は技術者に非常に負荷のかかる作業であるため、それをサポートするための設計最適化手法が盛んに研究されてきた。
はじめは、機器の寸法を自動で調整して所望の設計を得る「寸法(パラメータ)最適化」が広く研究されてきたが、近年では「トポロジー最適化」と呼ばれる方法に注目が集まっている。この方法は、寸法を規定することなく、機器の形状をコンピュータ上で自在に変えて、よい設計を探す方法である。例えば、“表面の曲率が変わる”、“内部に自動で穴をあける”といった大きな形状の変更操作を、自動的に行うことができる。パラメータ最適化とトポロジー最適化の比較の概略を図1に示す。
解説3 AIを用いたモータモデルの生成とトポロジー最適化の高速化
電気機器に求められる仕様は、環境問題などの観点から年々厳しくなり、駆動方式や設計の複雑化により開発工数が増加する傾向にある。工数の増加は開発コストにも直結することから、効率的な設計手法が求められる。その一助となる技術として、シミュレーションと数理最適化を併用した形状最適化技術がある。
形状最適化技術においては、候補となり得る形状を何らかの形状表現手法と更新アルゴリズムで生成する。最適化中で考慮する形状の特性を得るため、目的に応じた解析を実行する。例えば、モータの平均トルクやトルク脈動を得る場合は磁界解析、応力を考慮するためには応力解析が必要である。解析により得られた特性値により最適化の探索空間を表現する目的関数を定義し、目的関数に応じ、最良な形状を探索する。
解説4 AR・VR技術を応用した磁界のインタラクティブ可視化手法
筆者らの研究グループでは、磁界を可視化によってイメージさせて基礎的な理解を促し、モータに代表されるような電気機器の基礎設計や教育の場面で役立てることを目的に、拡張現実感(AR)技術や仮想現実感(VR)技術を利用したインタラクティブ可視化システムを開発している。本稿では、これらの可視化システムについて紹介する。
筆者らが開発している可視化システムは、初学者や分野外のエンジニアでも理解しやすいことを目標に、単に磁界シミュレーションを行ってコンピュータのディスプレイ上で可視化を行うのではなく、ARやVR技術を積極的に活用し磁界のイメージを手助けするものである。また、ある特定のケースの解析結果を単に評価するだけでなく、ユーザー自身が対話的に条件を変更しながら可視化結果を観察できる「インタラクティブ性」の実現を目指している。
解説5 モータ試験装置向け負荷モータの製作
当社ではモータに関する受託開発を行っており、需要の高まる高速モータの評価に対応するため、新たに高速モータ試験装置を導入することとした。
高速モータ試験装置を導入するにあたり、供試モータの負荷となるモータ(負荷モータ)の設計と製作を実施した。負荷モータは高出力でありながらも、高速であるため比較的小型であることから、冷却方式を水冷とする必要があった。そこで、設計した負荷モータの冷却効果を伝熱解析により見極め、十分な冷却効果があることを確認した。また、負荷モータを製作し、温度試験を行い、伝熱解析の妥当性を確認した。
本稿では、モータ試験装置の概要、負荷モータの伝熱解析、温度試験による妥当性の確認について紹介する。
図2にモータ試験装置の一例を示す。評価対象の供試モータはインバータにより駆動制御されることで、トルクを出力する。供試モータの出力したトルクは負荷モータによって吸収され、インバータやコンバータを介して電源に回生される。
執筆者紹介
解説1 長岡技術科学大学 日高 勇気:技学研究院 電気電子情報工学系 准教授
解説2 室蘭工業大学 佐藤 孝洋:大学院工学研究科 もの創造系領域 准教授
解説3 法政大学 佐々木 秀徳:理工学部 電気電子工学科 専任講師
解説4 新居浜工業高等専門学校 松友 真哉、眞鍋 知久:電子制御工学科 准教授
解説5 長岡モーターディベロップメント 佐藤 大介:代表取締役
雑誌紹介
雑誌名:機械設計2022年10月号 Vol.66 No.11
判型:B5判
税込み価格:1,540円
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