「マイクロバイオーム」制御する医薬品、神戸大発スタートアップが開発に挑む

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マイクロバイオームに適した細菌を開発するバイオパレット

体内に共生する細菌叢(マイクロバイオーム)を制御する医薬品が注目を集めている。米国では多くのスタートアップがこの潮流に挑んでいる。神戸大学発スタートアップのバイオパレット(神戸市中央区)は、「全遺伝情報(ゲノム)編集」技術を使い、設計した細菌を利用した医療の提供を目指す。腸の疾患や免疫チェックポイント阻害剤の薬効増強に使う。

マイクロバイオームを制御する医薬品では、患者に不足している細菌を投与して治療や予防を行う。がんなどの疾患との関係性が示唆されており、有効な治療方法が十分にない疾患の新しい治療方法となる可能性が期待されている。

米国のスタートアップを中心に、野生型細菌を利用した候補薬が治験へ進んでいる。遺伝子組み換えした細菌を使う候補薬の開発も行われる。

バイオパレットはゲノム編集で、疾患治療により最適な細菌を作る。

特徴はゲノムの編集方法にある。現在、広くゲノム編集で用いられる「クリスパー・キャス9」はデオキシリボ核酸(DNA)情報の鎖を酵素で切り、生物が持つDNAが修復する仕組みを利用して塩基配列を改変する。この修復の仕組みを利用する関係上、DNAの一部が欠損してしまうなど、一定の不確実性の下で編集を行ってきた。

同社が使う塩基編集では、狙った塩基の変換を誘導する酵素で編集する。クリスパー・キャス9とは異なり、DNAの鎖を切ることなくゲノム編集を行える。岩田清和最高執行責任者(COO)は「既存の方法では細菌は致死率が高く、扱いづらい。塩基編集であれば、これまでゲノム編集ができなかった細胞にも適応できる」とメリットを話す。この細菌を人に投入し、マイクロバイオームを最適なバランスに整え、病気の進行を食い止めたり治療したりする。

潰瘍性大腸炎やクローン病など腸疾患の場合、腸内細菌叢の構成異常と疾患の関係性が指摘されている。現在は細菌叢バランスを改善するアプローチに注力されている。バイオパレットでは、同様の方法ではなく、疾患の原因となる腸内細菌の機能を、ゲノム編集で制御する治療アプローチを開発する。微生物の機能を制御して長期的にヒトの腸内に生着させ、治療する。

また、免疫系を活性化する微生物を併用して、がん細胞を攻撃して治療する「免疫チェックポイント阻害剤」の薬効を高める研究も世界中で盛んだ。同社はゲノム編集した腸内細菌と免疫チェックポイント阻害剤を併用することで、抗腫瘍効果を向上させ、がん治療薬の薬効を高める治療法の実現を目指す。2024年ごろにもメガファーマと候補薬についてライセンス契約の締結を目指す。

足元ではゲノム編集をマイクロバイオームへ適応を目指すスタートアップも生まれているが、奥村亮最高経営責任者(CEO)は「我々は塩基編集の基本特許をそろえている。この分野で代表的なプレーヤーになっていきたい」と力を込める。潰瘍性大腸炎やクローン病などは完治の治療法が見つかっていない。有効な治療薬の実用化が期待される。

日刊工業新聞 2022年9月14日

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