日本IBMと連携、中外製薬が加速する医薬品製造DXの全容
中外製薬が医薬品製造のデジタル変革(DX)を加速している。日本IBMと協力し、バイオ医薬品の製造拠点である浮間工場(東京都北区)をDXのモデル工場として、同工場にまもなく新しいデジタル基盤を完成させる。今後、宇都宮工場(宇都宮市)や藤枝工場(静岡県藤枝市)などへの展開もにらみ、製薬機能のDXを推し進める。(藤木信穂)
血友病治療薬「ヘムライブラ」を製造する浮間工場は研究開発部門と連携し、新規医薬品の治験薬(薬の候補)の製造も担う「開発型工場」だ。121億円を投じ、現在、生産の効率化と環境対応を目指した新しいバイオ原薬の製造棟(UK4)を建設中。初期開発用の治験薬製造に特化した設備で、研究から臨床開発に移行する初期試験の迅速化を狙う。2024年1月の稼働を予定する。
同工場ではデジタルプラントの実現を目指し、日本IBMの協力を得て生産性向上や業務プロセスの改善などを進める。製造や品質管理など各部門のデータを吸い上げ、共通のデジタル基盤に集約する整備が最終段階を迎えており、完成すれば「かなりの生産性向上が期待できる」(愛波曜(あいばよう)浮間工場長)という。先行する浮間工場で一定の成果が出れば、これをモデルに他拠点のDXにも乗り出すとみられる。
同社は「デジタルビジョン2030」でデジタル基盤の強化を掲げており、創薬、開発、製造の各フェーズで保有するデータの全社的な利活用を強力に推進。経済産業省が東京証券取引所などと共同で選定する「DX銘柄2022」では、特に優れた企業であるとして「DXグランプリ」に選ばれた。医薬品業界では唯一の選定で、業界をリードする。
志済聡子上席執行役員デジタルトランスフォーメーションユニット長は「これまで組織風土や文化の改革、デジタル人財の育成などの基盤を強化してきたが、今後はビジネスを変えるフェーズに移行する」と話す。