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スバルが内製で推進するAI開発の現在地

走行環境の認識高度化
スバルが内製で推進するAI開発の現在地

スバルラボでは画像取得から画像処理、シミュレーションまで行っている

SUBARU(スバル)が人工知能(AI)開発に本腰を入れている。2020年12月、AI開発拠点「スバルラボ」(東京都渋谷区)を開設し、運転支援システム「アイサイト」に組み込むAIを内製している。同社は30年までに、スバル車による死亡交通事故をなくすことを目標に掲げる。その実現に向けて20年代後半までに、開発するAIをアイサイトに搭載することで運転支援機能をより向上させたい考えだ。

「本当に必要な技術を作るためには他力本願にならず、自分たちで取り組んだ方が良いと判断した」。AI開発の内製化に本格的に乗り出した背景についてスバルラボの齋藤徹副所長はこう話す。スバルラボを立ち上げるまでは、主に東京事業所(東京都三鷹市)や群馬製作所(群馬県太田市)などの拠点でAIを開発していた。そのメンバーをスバルラボに集め、25人ほどの体制で始動。その後、外部人材の採用にも取り組み体制強化を進めている。齋藤副所長はスバルラボでは「多数の画像データを集めてアルゴリズムを作成し、学習やテストをするというサイクルを一体となって回せる。多くのデータを集められるのが強み」と強調する。

スバルラボが取り組むのは、アイサイト独自のステレオカメラとディープラーニング(深層学習)の融合による車の走行環境の認識の高度化。アイサイトは車両に搭載するステレオカメラで撮影した画像を分析して走行領域を判断している。そこに深層学習の技術で、推論・予測もできるようにして精度を高める。

例えば道路の路肩に雪が積もって白線が途切れていた場合、人間であれば経験値から走行できる範囲を判断できるが、これまでのアイサイトの画像処理のアルゴリズムでは走行領域の判別が十分にできなかった。今後、走行領域の境界があいまいな場合でも、深層学習による推論・予測の機能を加えることで、走行可能領域を明確にすることを目指す。

そのために活用している技術が深層学習の一つである畳み込みニューラルネットワーク(CNN)。「一つの画素を判断するのに、周りのさまざまな情報を基に推論させることができる」(齋藤副所長)という。その技術を用いて領域分割する「セマンティック・セグメンテーション」などによって走行可能領域を判別することができるようになる。

今後、開発を加速させるために齋藤副所長は「自動車業界とは違う風土、文化を持つ人にも入ってもらいたい」と力を込める。(石川雅基)

日刊工業新聞2022年8月26日

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