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職場の外国人との会話どうする?ポイントは“ハサミの法則”

です・ます調で説明

日本で働く外国人が170万人を超えた。人手不足に悩む企業には貴重な戦力だが、言語の壁を感じる経営者も多いだろう。簡単な日本語で説明したつもりが、伝わっていないことがある。どのような日本語なら外国人に理解してもらえるのか。電通グループの横断組織「電通ダイバーシティ・ラボ」で、やさしい日本語プロデューサーを務める吉開章氏に、職場での外国人との会話に生かせる日本語のポイントを聞いた。

職場で外国人に伝わらない会話は意外と多い。「忘れないようにメモをして」と言われても、日本語を理解できない外国人には聞きながら書くことも難しい。表現を変えながら繰り返し説明しても、外国人は知らない言葉が次々と出てきて混乱する。

「これ、やって」「できた?」「いいよ」と親近感を込めたつもりが、外国人は日本語を「です・ます」で習っているので戸惑う。吉開氏は「です・ますのような典型的な文法で文を切るように」と助言する。指示も「しましょう」ではなく、「して下さい」が通じやすい。コツは「小学3、4年生の作文のようなしゃべり方にある」という。

また「ギュッ」「ガラガラ」といった擬音語・擬態語も通じにくい。「しない方がいい」のような微妙な言い回しや複合動詞も避け、単純な一つの言葉を選ぶのも大切だ。吉開氏はやさしい日本語の基本を「はっきり、最後まで、短く言うこと」と力説する。頭文字をとって“ハサミの法則”と呼んで提唱している。

ただし注意点がある。休憩時間や懇親の場では、日本人の同僚と話す普段の言葉で外国人と会話すべきだと助言する。「外国人は雑談で日本語をどんどん習得していく。雑談に入れると、日本人と仲良くなれて職場を好きになる」(吉開氏)と話す。いつまでも普段と異なる「です・ます」調の言葉で話しかけられていると疎外感が生じ、職場に打ち解けられないままだ。

やさしい日本語を解説する宮城県岩沼市のJOCA(青年海外協力協会)での講演

いま、日本企業で働く外国人の人権問題が社会的に関心を集めている。低賃金・長時間労働の強制や罵声を浴びせるパワハラは明らかに問題だが、日本人が思い当たらなくても人権を侵害していることもある。

その一つが言葉の問題だ。吉開氏は日本の職場に外国人への「日本語ハラスメント」が潜んでいると指摘する。雇用者にはコミュニケーションをとりやすい職場をつくる責任があるはずだが、外国人が理解できない言葉を使い続けることは「責任の放棄」(吉開氏)。あからさまに「日本語をできないのが悪い」という態度をとり、社内での敬語の間違いをしかることは「非常に不当」(同)。風通しの悪い職場だと指示の意味が不明でも外国人は分からないと言えなくなる。意思疎通の不足がミスにつながると、経営に痛手となる。

風通しの良い職場なら外国人は日本語が上達し、こなせる業務が増えて成長し、経営に貢献する。その外国人がリーダーとなって外国人の採用やまとめ役になってくれると、社内の人材の多様化が進む。

吉開氏は「やさしい日本語は極めて有効」と企業に“はっきり、最後まで、短く言う”の実践を薦める。

日刊工業新聞2022年9月9日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
工場や職場で使える英語も重要と思いますが、日本語もニーズがあります。主語がないなど、日本語特有の難しさは知っているつもりでしたが今回、取材してみて気づきが多かったです。ぜひ続編をやりたいです。

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