研究開発スピードと経済安保の管理バランスどうするか、産業界の声・声・声
研究開発のスピードと経済安全保障の管理のバランスが課題になっている。研究を加速するにはその時々で最先端にいる相手と情報を交換すべきだ。ただ管理の厳格化は自由度や効率を損ないかねない。日刊工業新聞社が実施した2022年度研究開発アンケートでは産業界からガイドラインの整備や組織ごとの管理体制の見える化への要望が挙がった。
「人財流動化に伴い経済安保にかかる管理コストが増える。管理体制と整合が取れなくなる可能性があるため国が主導して合理的なルール化をお願いしたい」(総合電機)。重要な技術を守りつつ、人材流動性を高めて研究を加速させる。現状では、この二つがトレードオフにある。
これは全体として管理水準が一定レベルにないためだ。安心できる連携先を探すことにも苦労している。そのため「学生などに対しての情報管理の徹底」(化学)、「情報漏洩の未然防止の徹底」(金属)、「外為法の順守と機密情報取り扱いに対する全学ルールの制定と徹底」(電子部品)、「倫理教育の徹底」(機械)など既存のルールに対しても徹底を求める声が多い。管理が一定水準にないと、コンソーシアム型の産学連携事業などの複数の大学や企業が関わるプロジェクトでは水準が低い組織に合わせて補完する管理支援体制を組む必要がある。管理が多重化し業務負荷が増えてスピードが失われる。
1対1の産学連携も大型化し、共創型事業として重要な技術を開発するようになっている。そのため「大学側の経済安保運用体制がどのようになっているか、産学連携の企業側に分かりやすい形で示して頂けるとありがたい」(東芝)。「企業と大学双方の管理体制の見える化と経済安保に対する認識ギャップの解消が必要」(通信機器)との声が上がる。大学は全学一律の管理体制を敷くのが困難だと考えられる。そのため研究センターや研究科などの単位で管理体制を産学連携のオプションとして用意していく形になるだろう。
そして底上げも避けては通れない。「現在の国内の産学連携の仕組みはルールにのっとった競争状態はあっても、それを逸脱した悪意をもった人間がいないことが前提で成り立っており脆弱である」(精密機器)ためだ。「産学連携事業に参加する大学と企業研究者、産学連携担当者に向けて、参考事例や今後の留意点などの定期的な研修を希望する」(製薬)という声もある。そしてガイドラインやルール整備が必要という共通認識はできている。「企業は経済安保の観点から保守的になりがちだが、ガイドラインなどで何をどこまで注意すれば良いかが明確になるとオープンイノベーションを進めやすい」(電機)。
産業界は管理水準の底上げと研究開発のスピードを両立できる制度や体制整備を求めている。一朝一夕には進まないが一社一社の取り組みがエコシステムを支えている。今後産学連携の重要性は増すため「企業も大学も日頃から継続的に社会情勢や法整備状況をキャッチアップして自組織で管理体制を構築し仕組みを更新していくことが重要である」(富士フイルムHD)。