経済安保で学術界に求められる管理体制、支える「情報技術」の今

連載・定着するか経済安保 産学連携の必須要件へ#06

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産業界や経済安全保障にとって重要なのは5000億円規模の大型事業を機に、学術界に実行性のある管理体制を整えることだ。研究者の負担を増やさず、専門性のある人材を分野ごとに配置する必要がある。ただ地方大学をはじめとして経営に余裕のある組織は少ない。そこで情報技術に注目が集まる。

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国立情報学研究所の水野貴之准教授らは経済安保調査のために1億社と4億株主の株式保有のネットワーク構造と支配力を可視化する技術を開発した。サプライチェーン上で特定の国に議決権を握られている企業を一覧化し検索できる。

実際に電気自動車のサプライチェーンで、蓄電池のチョークポイント(急所)が外国政府の影響下にあるとあらわにした。米国は投資会社経由で影響力を広げ、中国は政府と政府傘下の資産管理組織経由で影響力を持つ構造を可視化できた。

学術界では論文の共著ネットワークや研究資金の出所がデータ化されている。水野准教授は「議決権のように研究予算に応じて発言力があるなら同じ計算は可能。リストを作成できる」と説明する。

外為法のみなし輸出管理の審査では技術情報を共有する相手が外国政府の影響下にないか判断する。研究者個人が共同研究の相手の資金獲得状況を調べるのは負担だが、管理対象候補がリスト化され、影響度が見える化されていれば負担は軽くなる。ブラックリストを作るだけでなく、安心して連携できるホワイトリストを作る面でも重要になる。

また外為法は技術のリストがあるが、経済安保は、どの技術が該当するかまだ曖昧だ。リスト作成はこれからになる。公安調査庁は懸念国が関心を示し、日本が優位性を持つ技術を幅広く対象として調査している。これだけ対象が幅広いと実質的な業務は、企業が自らの競争力を維持するために実施している情報管理業務と同様になる。コア技術を見極め、情報を管理し、協業する相手を選ぶ。

日立製作所は技術文章と輸出関連法令を結びつけて、技術文章が関わりそうな法令文を抽出するAI技術を開発した。メールなどで技術文章を送る前に関連法令があるかチェックしやすくなる。輸出管理では法令違反の47%が知識不足や見落としによる意図せぬ違反だった。

法令が頻繁に改定されるため現場の技術者が最新情報を把握することは難しい。企業も専任の担当者を置いて審査業務を担わせている。広範な学術を扱う総合大学では分野ごとに管理人材を配置することは難しい。AI技術でチェックできれば法務部や研究者の負担を抑えられる。

ITが経済安保審査のような管理業務をすべて解決してくれるわけではないが、より実行性のある形に直してくれるのは確かだ。今後、研究開発関連の大型予算は国にとって重要な事業に集中していくと見込まれる。 管理の厳格化が想定されるが経営に余裕のある大学は少なく、資金配分機関が全国の大学を支えるのは不可能という声もある。学術を支える情報基盤への投資は、特定大学への予算集中を和らげることにもつながる。日本の学術界に経済安保を根付かせる知恵が求められている。(おわり、小寺貴之が担当しました)

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COMMENT

小寺貴之
編集局科学技術部
記者

情報技術は強力で、株式保有の支配力ランキングは世界の支配構造とも言えるものでした。これを研究者の研究資金の獲得情報に当てはめれば学術界の支配構造さえ可視化できると思います。そのネットワーク構造から国際的な賞の審査員と受賞者の関係も見てとれるかもしれません。将来、国際連携の可否判断に使われうるデータは機微情報に類する情報になるかもしれません。いまのうちに集められるものは集め、また日本にできることは他国もやる前提で動いた方がいいように思います。

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