頑丈で、打ちやすく抜けにくいペグ 決め手は「熱処理」
オカネツ工業(岡山県岡山市)は、鋼製ペグ「ARROW(アロー)」の販売を6月から本格的に始めた。ペグはテントなどを張る際にロープを引っかけ、地面に打ち込むことで固定する器具。こだわりは熱処理技術を生かした「頑丈さ」と利用者目線で作り上げた「打ちやすさ・抜けにくさ」だ。(取材・岡山・村上真穂)
同社は金属熱処理事業を祖業に、農業機械の部品製造やOEM(相手先ブランド)生産を主軸にする。今までにない客層の取り込みを目的に初の自社製品、電動ミニ耕うん機を発売したのは2012年。BツーB(企業間)事業は継続できる環境にあり、安定していた。だが、既存顧客ありきの売り上げはいつか頭打ちになる。自社ならではの新たな製品作りを始めた。その後、電動運搬車やアイスクリームブレンダーなど、幅広く自社製品を製造。買い手の生の声が直接社員に伝わることは、社内のモチベーションアップにも繋がった。
「ARROW」はキャンプを趣味とする担当者が企画した。21年4月、商品企画の勉強会をきっかけにキャンプ場でユーザーヒアリングを開始。同年7月には試作が完成した。「熱処理技術を生かし、一般的な鍛造ペグよりも丈夫で軽いペグを作れないかと考えた」と設計開発部の成本敬介副主務は振り返る。11月にクラウドファンディング(CF)サイトへ掲載を始めると、目標額の約12倍を達成した。先行してリターン品を手にしたユーザーからは、狙い通り打ちやすさや抜けにくさが好評だ。
鋼製のペグは熱処理の温度と時間の調整、焼き戻しの工程により、表面0・5ミリメートルは硬く、中は粘度があり柔らかい。しなりのある頑丈なペグができあがった。同社は設計から加工、熱処理、塗装、組立、品質管理、製品出荷まで同じ事業所内で対応することができる。この環境を活用し、利用者目線で改良を重ねた。ハンマーを打ち込む部分は十文字に。視覚的に的の役割を果たし、接触する面積も広がるため打ちやすさが向上した。地面内での回転を防ぎ、固定力を強固にするため、全体の形状はフラットな板状に。更に、抜け止めの「かえし」を付けた。
サイズは長さ185ミリメートルから最大365ミリメートルまで4種類。打ち込んだ際、地上に突出する部分にフックを付けたタイプもあり、蚊取り線香や小型のランプをかけることができる。自社電子商取引(EC)サイトでの価格は消費税と送料込みで複数本セット4334円から。アウトドア用品店や岡山県内のキャンプ場でも販売する予定だ。
CFの利用で全国的な認知度が上がり、問い合わせも増えた。「農業機械だけではない、柔軟性のある会社として認知され始めたように感じる。『まずは一度オカネツ工業に聞いてみよう』という相談が増えた」と広報室の櫻井真弥室長は話す。
今回のキャンプ用品市場への参入をきっかけに、今後もアウトドア用品の開発を検討している。22年時点でBツーC(対消費者)製品を含む自社製品の売り上げは全体の2%。10年間で30%を目指す。