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“深海の覇者”の姿暴く、海洋機構が明かにしたこと

“深海の覇者”の姿暴く、海洋機構が明かにしたこと

海水の塩分や水温、圧力を計測するセンサー付きの採水器。採取した海水からDNAを抽出した(海洋機構提供)

世界中にはまだ発見されていない新種生物が数多く存在する。海洋研究開発機構は、2021年に駿河湾で新種の巨大深海魚「ヨコヅナイワシ」を発見したと発表。より詳細な調査が進められ、駿河湾より南方に生息域があり、水深2000メートルより深くに生息する海固有種として世界最大の硬骨魚類であることを明らかにした。地殻変動に対する生物の変化や、食物連鎖による生態系の維持などの解明につながると期待される。(飯田真美子)

自然環境の保全に関する基本的事項を定めた「自然環境保全法」に基づき、海洋機構では20―21年にかけて生態系に関する調査を実施した。沖合の海底自然環境保全地域をモニタリングするための基本情報の取得や、調査手法の確立を目指している。海水の塩分や水温、圧力を計測するセンサーが付いた採水器で採取した海水に含まれるデオキシリボ核酸(DNA)を解析すると、21年に発表されたヨコヅナイワシの遺伝子配列が3カ所から検出された。

ヨコヅナイワシは駿河湾で発見された新種の深海魚。セキトリイワシ科魚類に属し、全長約140センチメートル、体重約25キログラムという同科最大の生物。歯列や頭部などの形態や遺伝子配列から新種と断定された。プランクトンだけでなく小魚などを餌とする魚食性があり、駿河湾深部で食物連鎖の頂点に立つ「頂点捕食者」であることを明らかにした。今回、駿河湾よりも南方の海域でヨコヅナイワシのDNAが検出され、より詳細な情報を得るための研究が進められた。

海水からDNA断片検出

採取した海水から得られたDNA断片は約780万個であり、ヨコヅナイワシの遺伝子は0・5―8・9%だった。同遺伝子が見つかったのは水深1900メートル以深で、駿河湾の南方にある「西七島海嶺(かいりょう)」だけだった。この知見を生かして、駿河湾から約400キロメートル南に位置する「元禄海山南方」の水深2091メートルに餌付きのカメラを設置すると約5時間半後にヨコヅナイワシが出現した。餌に近づいたヨコヅナイワシは付近に存在した魚類に対して口を開けて威嚇し、追い払って餌の入ったカゴにかみ付く行動を撮影できた。ヨコヅナイワシが属するセキトリイワシ科魚類は体が柔らかく水っぽい筋肉を持つ脆弱(ぜいじゃく)な生物が多く、威嚇は予想外の行為だったという。大型魚類を餌にしており、栄養段階が高いことから威嚇して餌をとる行動が見られたと考えられる。

餌に群がるヨコヅナイワシ(海洋機構提供)

また撮影したヨコヅナイワシの全長は253センチメートルだった。水深2000メートルを超える深海に暮らす全長200センチメートル超の硬骨魚類は7種しか存在せず、深海固有種はヨコヅナイワシとムネダラのみ。今回観測したヨコヅナイワシはムネダラの最大記録を上回るため、2000メートル超の深海固有種として世界最大の硬骨魚類であることが分かった。相模湾に限らず西七島海嶺でもヨコヅナイワシは頂点捕食者であると見られる。今後、深海の生態系への影響などの研究に応用される。

日刊工業新聞2022年7月11日

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