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「製造業DX」を狙え、 エンジ系大手が相次ぎ新会社

「製造業DX」を狙え、 エンジ系大手が相次ぎ新会社

エンジ系大手各社はDX支援の新会社を通じて、顧客の工場やプラントの生産性向上、設備保全効率化に貢献する(イメージ)

エンジニアリング関連の大手各社が、製造業のデジタル変革(DX)を支援するビジネスを担う新会社を相次いで立ち上げた。自社で培ったデジタルや人工知能(AI)のノウハウを新会社でサービス化する。出資先のスタートアップの技術をサービス提供するケースもある。新会社を通じて顧客の工場やプラントの生産性向上、設備保全効率化に貢献し、新規事業として成功を狙う。(戸村智幸)

【横河電機】AIで工場自律制御 経営者の意思、操業に反映

横河電機は製造業のDXを支援する新会社横河デジタル(東京都武蔵野市)を7月に設立した。横河電はプラントの操業をつかさどる制御システムの大手で、OT(制御・運用技術)に知見を持つ。AIによるプラントの自律制御の実証に力を入れている。既存の子会社横河ソリューションサービス(東京都武蔵野市)は製造業にコンサルティングを提供している。

横河デジタルはこれらを生かし、製造業に経営コンサルティングやシステムを提供し、DXにつなげる。システムは横河電の産業用クラウド基盤を通じたSaaS(サービスとしてのソフトウエア)型が特徴だ。工場やプラント側のOTと本社側のIT両方に対応できるのが強みだ。

新会社により、迅速な意思決定でこれらを進める。人員は当初は約40人体制で、2023年度に400人ほどに拡大する。26年度に売上高300億―400億円規模が目標だ。

AIは横河デジタルの強みだ。横河電はプラントをAIで自律制御しようと研究しており、直近では実際のプラントでの35日間連続での実証に成功した。AIの研究メンバーの一部が横河デジタルに参加しており、中心人物の鹿子木宏明氏が社長に就いた。

プラントの自律制御はOTにAIを適用する取り組みだが、横河デジタルはOTとIT両方にAIを適用することを志向する。鹿子木社長は「これからは経営者の意思を反映できるAIが必要になる」と指摘する。例えば工場の生産方針を変更したい場合、AIを通じて全社に迅速に伝えて反映させるイメージだ。AIをOTとIT両方に適用できれば実現に近づくため、横河デジタルはそうしたサービスの開発を目指す。

ほかにも横河電の製造業としてのDXの知見を生かす。横河ソリューションサービスでの経験が豊富な勝木雅人横河デジタル取締役は「DX導入は現場の負担が増えることもあるので簡単ではなく、マインドセットが重要になる」と説明する。

その点、横河電は世界18工場のデジタル化を進めており、自社工場の従業員にデジタル化の必要性を説明した経験を生かせる。勝木取締役は「現場が主役になって課題を解決して成果を出せるようにする」とマインドセットの方向性を示す。製造業として工場のデジタル化の難しさを知るからこそ、実効性のあるサービスを生み出せると見込む。

【日揮HD】「デジタルツイン」で保全計画立てやすく

日揮ホールディングス(HD)は製油所や石油化学・化学などプラントの設備保全に狙いを絞る。国内事業会社の日揮(横浜市西区)が5月、現実世界をデジタル空間上に再現する「デジタルツイン」によるプラント保全を担う新会社ブラウンリバース(同)を設立した。新会社化で経営判断を速める。

国内のプラントは老朽化が進んでおり、保守点検の重要性が高まっているが、広大なプラントの点検は手間がかかる。少子高齢化により、点検を担う人員が将来不足することも懸念される。

ブラウンリバースはプラントを可視化するソフトウエアを販売し、配管などの状態や保全実績を把握し、保全計画を立てやすくする。顧客のプラントをカメラで360度撮影し、機器や部材の相関関係を可視化し、プラントの3次元(3D)モデルをパソコンなどで表示する。実際にプラントを歩き回るようにして機器などの状態を確認できることが特徴だ。

日揮はソフトの無償版を21年11月に公開して十数社に試験提供し、幅広い業種のプラントで需要が見込めると判断し、ブラウンリバース設立を決めた。

日揮の新会社のソフトはプラントの状況を可視化できる(イメージ)

デジタルツインは一般的に手間がかかると言われるが、ソフトは年間約250万円からのライセンス制。利用者数やデータ量に応じて金額は変わるが、デジタルツインを初期費用を抑えて素早く導入できる利点を売り込む。SaaS型で提供し、5年後には1000事業所での導入を目指す。プラントの操業シミュレーションや予知保全の機能を開発し、追加提供することも見据える。

ブラウンリバースは4人と少人数で始動したが、5年後には外部パートナーを含めて100人規模にする計画だ。

【JFEエンジ】顧客の課題や要望、新興の技術で解決

JFEエンジニアリング(東京都千代田区)は19年から東京センチュリーと共同でスタートアップに出資してきたが、次の段階に移る。両社の折半出資で5月、新会社セカンドサイト(同)を設立した。

両社は共同設立の一般社団法人により、21件30億円のスタートアップ出資を決めている。セカンドサイトは出資先の各社の技術を組み合わせ、スマートファクトリー、社会インフラなどの分野に必要なサービスを提供する。秋江辰司セカンドサイト社長は「大手のスタートアップ投資は主に自社向けで、ソリューション化して外販するのはあまり例がない」と独自性を主張する。

スタートアップの最新技術を活用したい顧客から課題や要望を聞き取り、解決する新サービスを開発・提供する。工場やプラント、インフラ構造物の遠隔監視や故障予測、ヘルスケア関連を想定する。具体的には、人間の五感に代わるセンシングで工場などの設備を診断することや、職人のノウハウをデジタル化して構造物を無人診断することが考えられるという。

顧客企業の課題の明確化やゴール設定、仕様確定、プロトタイプ開発までの初期段階を550万円程度の定額で提供する。導入までの開発費用を追加で受け取る。導入後はリカーリング(継続課金)形式を取り、初年度20件の提供を目指す。

JFEエンジニアリングと東京センチュリーは出資先のスタートアップのサービスを提供する新会社セカンドサイトを設立(左から大下元JFEエンジ社長、秋江辰司セカンドサイト社長、馬場高一東京センチュリー社長)

デジタルやAIの最先端の技術をサービス化して事業展開するには、本体ではなく、関連の人材を集めて迅速に経営できる新会社が実行することが理にかなっている。それぞれの新会社の取り組みがどう成果を上げるかが注目される。

日刊工業新聞2022年8月18日

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