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異業種参入相次ぐ、5G網拡大へ「インフラシェアリング」活発化

第5世代通信(5G)網の拡大を背景に、複数の携帯通信事業者で通信設備を共用する「インフラシェアリング」の動きが活発化している。インフラシェアリング最大手のJTOWERは3月、NTTドコモから通信鉄塔最大6002基を取得する契約を締結。三菱地所や住友商事など異業種からの参入も相次ぐ。5G網の整備が急がれる中、通信設備の共用化で設備投資の費用を抑えたい通信会社のニーズが高まっている。(張谷京子)

【最大手のJTOWER】屋内中心から屋外へと領域拡大

(右)JTOWERは複数の通信会社から通信鉄塔を譲り受ける(イメージ)

「会社を設立した当初と比べて、携帯キャリアのインフラシェアリングに対する許容度が高まってきている。むしろ積極的に使うというスタンスになっている」。JTOWERの中村亮介常務は、市場の変化についてこう打ち明ける。

元々通信会社にとって、基地局は1社単独で建設するのが当たり前。基地局の充実度が他社との差別化要因であり、インフラシェアリングに対して、非積極的だった。

そうした状況を変えたのが、5Gの到来。5Gで使われる高周波数帯の電波は直進性が強いため、障害物が多い状況などでは通信を確保することが難しい。このため通信会社は、4G以前と比べより多くの基地局を設置する必要があり、基地局の建設に莫大(ばくだい)な費用がかかるようになった。通信設備の共用で投資・運用費用を削減したいというニーズが生まれた。

JTOWERが都心部に設置する「スマートポール」。基地局とサイネージ(電子看板)や人流把握・解析機能などを組み合わせた

2012年に設立したJTOWERは、日本のインフラシェアリング市場において、草分け的存在。アンテナなどの設備の共用化を提案している。22年3月時点で計画中の案件を含め、4G・5Gで計約460カ所の建物に屋内共用設備を導入した。

現在は屋内中心だが、今後は屋外の設備共用にも力を注いでいく方針。ドコモに加えてNTT東日本、NTT西日本からも鉄塔を譲り受けるほか、JTOWER自ら鉄塔を新設する。中村常務は「まだまだ(5G網が)カバーされていないエリアはある。地方創生のほか、遠隔医療や自動運転の進展などを見据え、全国津々浦々に5G網を整備するべきというのが政府の方針。インフラシェアリングの活用は5G網拡大に向けた一つの手段になる」と強調する。

【異業種の参入相次ぐ】資産・交渉力・ノウハウ活用

昨今は異業種からの参入も相次ぐ。住友商事と東急が21年に設立したシェアリング・デザイン(東京都渋谷区)はその1社。住商はJCOM、東急はイッツ・コミュニケーションズ(イッツコム、東京都世田谷区)というケーブルテレビ大手をそれぞれ傘下に持っており、それらの通信事業のノウハウを生かし、アンテナなどの通信設備共用を提案する。

5G時代を迎え、設備の共用により投資・運用費用を削減したいというニーズが生まれた(シェアリング・デザインの5G向け共用アンテナ)

東急が持つ空港や商業施設、ホテルなどの資産を活用できるのもシェアリング・デザインの強み。加藤由将執行役員は「(基地局を設置する)サイト(場所)をおさえることの手間が大きい。(東急が持つ)資産の活用で実績を積むことができれば、おのずと他の土地オーナーとも交渉しやすくなる」と意気込む。現在は、都市部中心だが、今後は全国展開も視野に入れる。屋内外で100カ所へ設備導入を目指す。

三菱地所は4月、同社が保有する丸の内ビルディング(東京都千代田区)に初めてインフラシェアリング用の設備を設置した。5Gインフラシェア事業室の中村俊介マネージャーは「5G整備は街づくりの発展に大きく寄与する」と参入の意義を訴える。

特に同社が焦点を当てるのは、基地局の設置可能な場所が限られている大都市圏。インフラシェアリングにより、これまで通信各社が個別に設置していた、ケーブルや電源を一本化できれば「場所を有効活用できる」(中村マネージャー)。

同社は、不動産デベロッパーとしての交渉力を活用。自社の保有物件に限らず、他の不動産会社や土地所有者へも共用設備の設置を提案。今後5年で300億円を投じ、1000カ所以上で設備を建設する計画だ。

豪不動産・建設大手のレンドリースは、米国など海外で培ったインフラシェアリング事業のノウハウなどを生かし、16年から日本で同事業を展開。日本法人レンドリース・ジャパン(東京都港区)のアンドリュー・ガウチ社長は、16年当時について「他の国と違って、日本はオポチュニティー(機会)が少なかった」と振り返る。

国内では3基のインフラシェアリング用通信鉄塔を建設し、サービスを提供中。今後2年をめどに、新たに約50基の同鉄塔を建設・所有する計画だ。

【携帯通信各社】共用化でコスト削減、成長分野へ投資

シェアリング・デザインはグループの通信事業のノウハウを生かす(同社の5G向け共用機)

インフラシェアリング市場の拡大に向けては、未知数な面もある。理由は「今の(4G)インフラを活用して5G網を拡大していくシナリオがある」(日本総合研究所の浅川秀之主席研究員・プリンシパル)からだ。

これまで主に、「なんちゃって5G」と言われる、ネットワークのコア設備で従来の4G設備を流用する方法で5G網の拡大が進んできた。なんちゃって5Gの場合、「真の5G」と言われる5G専用設備を使ってネットワークを構築する方法と比べて、高速・大容量、低遅延などの5G本来の特徴が提供されにくい。一方、基地局開設で、設備投資費用を抑えられるという利点がある。

4Gインフラの流用による通信網拡大が進めば、新規基地局の建設が減り、インフラシェアリングの利用は進まない。

真の5Gでなければ価値が最大限発揮されないようなユースケース(活用事例)の登場が望まれるが、「今は少ない」(浅川主席研究員)のが現状。真の5Gとユースケースは「鶏が先か、卵が先か」のような関係にあるが、浅川主席研究員は「ユースケースの登場を待つのではなく、社会資本の一つとして(真の)5G網を張り巡らしていくべきだ」と指摘する。インフラシェアリングの推進は、5G網を拡大する上で一助となるはずだ。

インフラシェアリングにより、基地局の設備投資・保守管理コストを削減できるのは、携帯通信事業者にとって利点が大きい。2日未明に発生したKDDIの大規模通信障害を踏まえて、同社に限らず通信会社は通信設備の保守管理費用の増大が見込まれるからだ。

通信各社は、政府主導による通信料金引き下げの影響で、個人向け通信事業の収益が圧迫されている。成長領域として期待する金融・決済やコンテンツなどの非通信分野に人材や資金を多く割り当てる必要がある。限られた経営資源で通信網を守るためにも、コスト削減につながるインフラシェアリングが一役買いそうだ。

日刊工業新聞 2022年7月21日

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