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KDDIが過去最大級の通信障害、社長はもっと早く会見すべきだった

2日未明に発生したKDDIの通信障害は国内でも過去最大級の規模となった。同社の高橋誠社長は3日11時から記者会見を開き、「深く反省している」と陳謝。だがこの時点で障害発生から30時間以上が経過し、影響を受けた回線数は全国で約3915万回線に達する。デジタル化の進展に潜むリスクが表面化した格好だ。

会見したKDDIの高橋社長

記者会見で高橋社長は「現在徐々に復旧しているが、完全復旧に向けて全社を挙げて対応を進める。社会インフラを支える、安定したサービスを提供する立場である通信事業者として反省している」とした。

今回の通信障害は通信設備の定期メンテナンスの一環として、通信ルートの変更を行った際に発生した。東京都多摩市に設置している、データ通信網を利用して音声通話を行う「VoLTE(ボルテ)」交換機に負荷が集中。この障害でデータ通信が混雑した結果、通信しづらい状況が起こった。

復旧作業は西日本地域が3日11時、東日本地域が同日夕に終了。ただし同社では「データ通信は可能でも、通話できないといった現象も一部でている」(高橋社長)としており、作業を終了しても安心というわけにはいかない。

一連の通信障害の影響はKDDIユーザーだけでなく、同社の回線を用いてサービスを提供する仮想移動体通信事業者(MVNO)のサービスにも及んでいる。

今回の通信障害を受けて各顧客への補償は検討中という。

企業サービスにも打撃 補償「今後検討して決める」

KDDIの通信障害は産業界に大きな影響を及ぼした。ヤマト運輸では配送状況の更新や配達ドライバーへの連絡ができなくなった。JR貨物では貨物情報システムで障害が起き、貨物列車の遅延が発生。これにより、日本郵政は近畿・中国・四国地方から北海道に送るゆうパックの一部に遅れが出た。

トヨタ自動車ではコネクテッドカー(つながる車)向けサービスが一部利用不可となった。小田急バスはバスロケーションシステムや業務無線に障害が出た。気象庁は観測点のデータ収集、大垣共立銀行は店舗外の現金自動預払機(ATM)の利用、日本航空は成田空港や羽田空港でスタッフ用無線機の使用が一部不可となった。

高橋誠社長は補償について「法人・個人を問わず迷惑をかけたので今後検討して決めていきたい」と述べた。

高速通信を用いた法人事業の強化は携帯各社の成長源だけに今回の通信障害はKDDIの法人事業にも打撃を与えかねない。

金子総務相「重大な事故」に該当 しかるべき対応を

金子恭之総務相は3日の会見で、KDDIの通信障害について「電気通信事業法上の『重大な事故』に該当すると認識している」と述べた。同社からの書面による正式な報告を受けた上で「同法に基づき、しかるべき必要な対応をとる」考え。

電気通信事業法では、緊急通報を扱う音声通話が1時間以上停止し、かつ3万人以上に影響する場合を「重大な事故」としている。2021年10月のNTTドコモによる通信障害は重大事故とされ、同年11月に総務省から行政指導を受けた。

金子総務相は今回の事態に対して「国民生活や社会経済の重要インフラである携帯電話サービスについて極めて多くの方々が長時間、利用困難な状態になっている事は大変遺憾」と指摘。「コロナや熱中症のリスクが高まっており、台風4号が接近しつつあるタイミングにもかかわらず、消防・救急などの緊急通報に支障を生じたことは、総務省として事態を深刻に受け止めている」とも語った。

日刊工業新聞2022年7月4日
志田義寧
志田義寧 Shida Yoshiyasu 北陸大学 教授
KDDIは日曜日に緊急会見を開いた。記者の中には、会見よりも復旧作業を優先すべきで、復旧作業の陣頭指揮を執っていた社長を会見で拘束したことに疑問を投げかける声もあった。原因がまだ完全に究明できていない段階で記者会見を開いても得られる情報は少なく、そうであるならば事態が収束してから開くべきという考え方も分からないではない。しかし、個人的にはKDDIはもっと早く会見を開くべきだったし、最高責任者である社長が出席するのも当然だと思っている。公共の電波を使用してサービスを提供する企業は、私企業とは言え高い公共性を求められる。今回は命綱である緊急電話にも影響が及んだことを重く受け止めるべきだ。電気通信事業法で報告が求められている「重大な事故」に該当する可能性が高く、その時点までに分かっていることについてメディア等を通じて国民に広く知らせることはインフラ企業として当然の責務と言える。

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