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「答えは全部現場にある」中部電力会長の経営哲学 

勝野哲氏

「大きな決断はトップダウン、現場レベルの改善提案はボトムアップ。この二つが両立して進むのが企業の理想形だ」。

電力システム改革で業界内が荒波にもまれる中、2015年に社長に就任した。電力の完全自由化に進む中部電力の旗を振り、同年4月に東京電力と設立したJERAに火力発電所を移管。18年には大阪ガスと組み首都圏でエネルギー販売を開始した。勝野氏が策定した「一歩先を行く総合エネルギーサービス企業」を目指す中部電グループの成長戦略をひもとくと、その起点は全て現場にあった。

静岡県を北から南に流れる大井川。最上流までさかのぼった先にある畑薙第一水力発電所(静岡市葵区)で若手時代を過ごした。1970年代後半のことだ。当時は人里離れた山奥で40人近くが合宿生活をして運転保守を手がけていた。

勝野氏が畑薙を離れた後の80年代中頃、遠隔監視制御が導入され発電所は無人化した。運転保守をしていた40人は新設した電力所に集められた。彼らが担当するのは、異常を見つけたら上位の電力所に報告すること。悪いところを見つけても、手出しできない状態だった。

「これではモチベーションが沸くはずがない」。若き勝野氏は憤った。現場から得た問題意識を胸に持ち続け、本店に異動してから電力所や営業所が自己完結できる仕組み作りに取り組んだ。

この経験から得たのが「組織が人を作り、その人が組織を作る」という学びだ。

発電所の機能回復や電気の販売といった全ての場面で共通するのは、仕事を通じて人が育つということ。今風に言うと、デジタル変革(DX)によって生まれた時間や人材が力を発揮する組織作りが欠かせない。そうしなければ、次代を担う人材も、それらの人材が発信するボトムアップも生まれない。「現場からの改善ができる組織作りをすることが大切だ」。

勝野氏はボトムアップを生み出すリーダーに欠かせないものに「知・想・意」を挙げる。「現場や人を知り、想像力たくましく未来を予想して戦略を立て、断固とした強い意志を持つ」ということだ。「従業員一人ひとりが気概を持って仕事に取り組むことにもつながる」。

勝野氏は完全自由化時代に向けた一手を打ち続けてきた。「僕は現場から話を聞いて、成長戦略を描くことを繰り返してきた」と当時を振り返る。

勝野氏は語る。「答えは全部現場にある」。(名古屋・永原尚大)

【略歴】かつの・さとる 77年(昭52)慶大工卒、同年中部電力入社。10年取締役、13年代表取締役副社長、15年社長、20年会長。16年から20年まで電気事業連合会会長も兼務。愛知県出身、67歳。
日刊工業新聞2022年5月31日

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