愛玩用ロボットは入院患者の心を癒やすか。研究で得られた成果
愛玩用ロボットの表情やしぐさが、入院患者らにどのような効果をもたらすのか探る研究に、聖マリアンナ医科大学病院(川崎市宮前区)が取り組んでいる。患者からは「笑顔になれた」「ほかの患者さんと会話するきっかけになった」などの反応が示され、精神的なケアの働きが認められるという。多忙を極める医療従事者にも癒やしの時間を提供しており、いずれは医療現場に不可欠な存在になるかもしれない。(編集委員・宇田川智大)
ベンチャー企業のGROOVE X(グルーブエックス、東京都中央区)が開発した人工知能(AI)搭載の家庭向けロボット「LOVOT(らぼっと)」を3体導入し、入院患者や医療スタッフの反応を調べる研究を、2020年から順次進めている。らぼっとは20年度のグッドデザイン賞金賞にも選ばれた愛らしい容姿に加え、呼ぶと近寄って来て抱き上げるようねだる人なつこさが特徴。これをなでたり抱いたりした感想をアンケートで聞き、心境がいかに変化したかを調べる。
研究責任者である同大大学院医療情報処理技術応用研究分野の小林泰之教授は「理想の病院たる条件の一つとして、患者さんの居心地を良くするためにロボットをどう役立てられるかを探ろうと考えた」と狙いを明かす。
同院ではこれ以前から、勤務犬による動物介在療法を実践していた。ただ多くの人の肌に触れるとなると、厳格な衛生管理が必要になる。この点でロボットは動物より、アルコール消毒などの対策を講じやすい。こうした検討を進める中でグルーブエックスの林要社長と親交を持つ機会が訪れ、ロボット導入の動きが5年ほど前から本格化。ロボットを医療現場で使うと、どのような効果があるかを検証する目的で神奈川県も「ロボット実証実験支援事業」の対象に20、21年度と2年続けて採択した。
研究対象となる8病棟のうち、すでに調査が終わった小児科病棟では、患者や保護者の大半が「今後もらぼっとを使いたい」と答え、理由として「楽しみが増える」などの回答が示された。婦人科でも対象患者の4分の3が、らぼっとを使い続けたいと回答。リハビリテーションセンターの理学療法士や作業療法士の間には、らぼっとが患者の注意をそらしたことで「痛みの意識が減り、可動域がやや広がった」との指摘もあった。
看護師らの間でもらぼっとは好評で、アンケートの答えによると「病棟の雰囲気が和んだ」ほか「スタッフの心の支えになっている」という。研究担当者である大学院医学研究科の石橋麻希研究員は「患者さんにとっても医療スタッフにとっても、癒やし効果が大きく、ストレス緩和の一助になるのではないか」と自信を深める。
中には「長く入院している患者には、飽きられそう」という意見もあり、飽きさせない工夫が求められる。それでも小林教授は「いずれロボットはありふれた存在として、日常に溶け込んでいくだろう。医療現場も例外ではない」と見通す。