東洋紡が祖業の「綿」を新分野で生かす、背景にアパレル不振
東洋紡は祖業の綿(コットン)を非衣料分野にも展開し始めた。酢酸セルロースとコットン糸を混合した射出成形材料や、織りの技術を応用した繊維強化熱可塑性プラスチック(FRTP)などを開発。塩ビの代替品や建築資材などでの利用を見込む。取り組みの背景にはコロナ禍によるアパレル不振がある。環境対応意識の高まりを追い風に、強みである天然素材の技術を新しい分野にも展開する。(大阪・友広志保)
東洋紡は衣料用化学繊維からフィルム事業、廃液処理からバイオ事業といった具合に事業を派生してきた。一方で衣料用コットンは改質による機能付与など、衣料繊維の枠内での技術開発に留まってきた。だがコロナ禍でアパレル製品の店頭販売が減少。東洋紡の衣料繊維事業は2020年度、21年度と営業赤字だった。22年度は黒字転換を見込むが、コロナ禍以前の事業環境には戻らないとみる。
そこで、コットン糸と酢酸セルロースを混合した成形材料「バージンコットンプラスチック」や、織物の経糸(たていと)だけを残したシート材と生分解性樹脂シートとの複合材料「コットンFRTP」を開発。さらに、コットンの端材と石油由来樹脂や生分解性樹脂を混合した成形材料から、ボタンやハンガーを作るアップサイクルシステムの提案も始めている。アップサイクルシステムの端材はトレーサビリティーの観点から東洋紡が製造した糸や生地に限定している。
用途や販路の開拓、既存製品との価格競争力など、事業を本格的に展開していくには課題も多いが、衣料繊維事業会社である東洋紡せんいの清水栄一社長は「当社は原材料の綿や糸に強みがあり、勝負や差別化できる」と強調する。現在は開発品を展示会に出展するなどして協業先を探しており、取り組みの輪を広げつつある。
天然素材のコットンには「環境対応や国連の持続可能な開発目標(SDGs)といった追い風が吹いている」(東洋紡)という中、さまざまな観点からコットン由来材料を売り込んでいく。