ナイロン不足で素材各社が対応急ぐ、代替品提案に追い風か
米大寒波による北米でのナイロン不足を受け、素材各社は代替調達やアジアなどからの供給対応を急ぐ。エンジニアリングプラスチック製の切削素材を展開する三菱ケミカルは、ナイロン樹脂の代替調達を進める。宇部興産はタイ拠点で生産したナイロン6樹脂を北米へ供給する。寒波以前からナイロン66樹脂の原料調達は不安定となっており、ユニチカなどは代替素材によって慢性的な供給不足の解消を提案する。
ナイロンの中でも最も厳しい影響が出たのは、原料の多くを米国に依存するナイロン66樹脂だ。耐熱性が高く、樹脂は自動車部品や産業用途に、繊維はエアバッグやタイヤコードなどに使われる。米デュポンなどからの供給が減少し、自動車生産にも影響した。
東レは3月上旬、ナイロン66繊維について契約不履行の責任を負わない「フォースマジュール(不可抗力条項)」を宣言した。岡崎工場(愛知県岡崎市)やタイ、メキシコで生産しており、納期は顧客ごとに個別交渉する。「回復の見通しは原料供給の状況次第」(広報)という。東洋紡は、日欧米を含む世界5拠点でエアバッグ用原糸や基布を生産。3月初めに製品供給に影響が出る可能性を顧客に通知した。
旭化成は延岡支社(宮崎県延岡市)にナイロン66樹脂と同繊維を原料から一貫生産する設備を持つ。このため米寒波による原料供給不足の影響は比較的に軽微で、フル生産を続けている。生産能力は、樹脂が年7万6000トン、繊維が同3万5000トン。繊維は2020年度中に同5000トンの設備を増設する。
エンプラ製切削素材で世界大手の三菱ケミカルは、従来調達ルート外からもナイロン樹脂の代替調達を急ぐ。「ナイロンは新型コロナウイルス影響からの需要回復で、大寒波前から原料の取り合いが起きていた」(広報)と指摘。同製品は切削加工され、機械部品などに使われる。基本的には米国拠点から供給するが、「必要があれば欧日の拠点からの供給も選択肢」(同)としている。
ナイロン66ほどでないが、ナイロン6もタイト感が増している。宇部興産は「ナイロン6樹脂の応援要請は多い。タイ工場から可能な範囲で北米向けに対応している」(広報)。
もともとナイロン66の中間原料「アジポニトリル」はメーカーが少ない上に、米ハリケーンなど自然災害の影響を受け、世界的に供給不足の傾向にあった。このため、代替素材の開発が進められ、市場に出始めている。
ユニチカは、アジポニトリルから生産される「ヘキサメチレンジアミン(HMDA)」を使わず、ナイロン66やナイロン6Tの代替となる素材を開発し、発売した。バイオマス原料を使い独自開発した融点315度Cの高耐熱ポリマー「ゼコット」をベースにしている。蘭ロイヤルDSMは1,4―ジアミノブタンを原料に使い、HMDA不足の影響を受けにくいナイロン製品群を展開する。
2月の大寒波の影響で停止した生産設備が復旧しても原料不足の傾向は続くとみられ、代替素材にとっては追い風となりそうだ。