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事業規模拡大するNEDO、理事長に必要な資質

石塚博昭理事長インタビュー

人材多様性で組織強化

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の石塚博昭理事長は人材を柱とする組織強化に取り組んできた。2018年の理事長就任からNEDOの事業規模は約3倍になった。一方で人員は18年4月の926人から22年4月は1412人と1・5倍増で収めている。資金配分機関として1人の職員が扱う金額は倍増。効率化と高度化が同時に求められている。

-大型の研究開発プロジェクトが走り出しています。業務が倍増し、さばけますか。
 「心配していない。いずれもNEDOが長年取り組んできた研究開発分野だ。同時にNEDOの人材育成や組織改革に継続的に取り組んできた。半導体やカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)のグリーンイノベーション基金など、計3兆円強の基金事業を含めて研究開発を進めている。おおまかに事業期間を10年間とすると年間3000億円。NEDOの年間予算は1500億-1600億円のため、扱う予算は3倍に増えたことになる。人員は1・5倍増と、組織を肥大化させずに取り組んできた。例えばプロジェクトマネージャー(PM)の認定制度を整えた。PMのレベルを公明正大に評価していく仕組みだ。知識やスキル、実績などを書類審査と認定委員会でのヒアリングを通して4段階で評価する。研究開発プロジェクトの難度に応じてアサインするプロジェクトを決める」

「またプロパー職員の採用を増やしている。以前は年に数人しか採用しない時代も続いたが、22年4月には新卒23人、キャリア採用33人と56人を新たに迎えた。顔ぶれも多彩で中央官庁やコンサルティング会社などからNEDOを選んで移ってきてもらった。NEDOは人材のダイバーシティー(多様性)が高い。民間企業や大学、官庁などから人材が集まり、NEDOプロパーの職員は約3分の1だ。民間からの出向者は、それぞれの企業文化を背負ってくる。分野も自動車や電機、素材とさまざまだ。多様な組織の核となるのがプロパー職員で力を付けられるように制度を整えてきた。外部からくる人材にとっては、さまざまな分野、考え方、組織文化をもったプロと共に働ける。実地で学べる環境になる。PMになると企業や大学の研究者をまとめてプロジェクトを進めることになる。NEDOという組織は多様でも、プロジェクトでは一枚岩となりベクトルをそろえて目標に向かっていく。こうした経験ができるのはNEDOならではだろう」

-22年度の研究開発の目玉は。
 「グリーンイノベーション基金は14分野19プロジェクトを進めていく。これまで13プロジェクトが組成された。航空機や船舶の脱炭素化、水素サプライチェーン、人工光合成などのCCUS(二酸化炭素の回収・利用・貯留)、燃料アンモニアなど、粛々と実行していく。またコロナ禍で顕在化した日本のデジタル変革(DX)の遅れに対応するために『産業DXのためのデジタルインフラ整備事業』を立ち上げる。三次元の空間情報基盤や次世代の決済取引基盤などの開発に取り組む。また飛行ロボット(ドローン)や空飛ぶクルマなどの『次世代空モビリティの社会実装に向けた実現プロジェクト』を立ち上げる。社会実装に向けて、航空法における安全基準への適合評価手法や運航管理技術の開発を通して安全で効率的な空の移動の実現を目指す」

-経済安全保障が重要施策になりました。大型の基金事業も始まります。ただうまく運用されるか懸念もあります。資金配分機関として研究機関へのチェック支援などできることはありませんか。
 「研究インテグリティ(健全性・公正性)として資金配分機関の対応を進めてきた。公募への申請時に兼業を含むすべての所属組織の情報を求めるなど、政府ガイドラインに沿った対応を実施している。産業界にとっては経済安保は懸案だった。今回、政府が方針を示したことで、ようやく仏が造られ、魂が込められる」

-経済安保と関連して技術インテリジェンスの強化が求められます。
 「技術戦略研究センターの組織・ユニットを再編して機能を強化している。政策立案に向けて科学的根拠を提供するのが役割だ。NEDOの難しさは自らが研究開発をできないことだ。一方で多くの研究者とベクトルを合わせてプロジェクトを進めている。この最先端にいる研究者たちから情報を集めて、その先を描いていける」

-理事長として最終年度を迎えます。NEDO理事長に必要な資質はなんでしょうか。
 「組織とミッションを多層的かつ俯瞰(ふかん)的に組織を見られる人物だろう。NEDOは研究開発から社会実装まで極めて広範な事業を推進する。当然だが理事長自身は研究者やPMにはなれないので、全体のバランスをとって進めていくことが求められる。そしてカーボンニュートラルなど目標は明確だ。30年後や50年後にどんな社会であるべきかビジョンはある。そこに向けて技術を開発し、社会実装していく。この4年を振り返ると、数兆円規模の研究開発政策が初めて実現した。これで産業界はカーボンニュートラルに本気になった。また、経済安保については研究開発の進め方も明確になる。NEDOとしては事業規模が拡大するなか、適正な人員規模で効率的にプロジェクトを進められている。必要な人材を育成・充実させ、NEDOが社会に信頼されるような組織にすることがトップの仕事になる」

【略歴】いしづか・ひろあき 72年(昭47)東大理卒、同年三菱化成工業(現三菱ケミカル)入社。07年三菱化学(現三菱ケミカル)執行役員、12年社長、15年社長兼三菱ケミカルホールディングス副会長、18年から現職。兵庫県出身、72歳。
日刊工業新聞2022年5月27日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
数兆円規模の基金事業を予想し、先に組織を作っておくことは不可能だ。石塚理事長が就任直後から人材強化を掲げてきたことが結果的に受け皿を作ることになった。それでも1人当たりの業務負荷は増している。経済安保で運営管理はより厳格になる。石塚理事長の任期は22年度まで。最後の1年でどんな手を打てるか注目される。

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