ウクライナ情勢だけじゃない。有事の際に必要な「不可抗力条項」とは?

社会人が知っておくべき契約知識 

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2022年2月から始まった、ロシアによるウクライナ侵攻。無差別攻撃で甚大な被害が出ているウクライナ、そして西側諸国による厳しい経済制裁を受けるロシアに拠点を置く企業では、製品の製造や輸出入ができないケースが相次いでいる。
 こうした不可抗力で生じた債務不履行に対して、債務者が責任を負わないことを定めるのが「不可抗⼒条項」だ。不可抗力条項が適用されるケースは自然災害、戦争、大規模停電など多岐にわたる。今回は、有事にあたって企業は何をすべきか、どんな事象が不可抗⼒として定義されるのかなど、ビジネスパーソンが知っておくべきポイントを解説する。

有事発生!そのとき企業がすべきことは?

有事に直面したとき、企業(とりわけ法務担当者)がまずすべきことは、自社の被害状態を確認することだ。自然災害、戦争、大規模停電などが起きたら、その事象と自社が被った損害の内容を正確に把握しなければならない。やむを得ない状況が発生し、自社に責任が無く、商品・サービスを契約で定められたとおり相手先に納入できないと考えられる場合は、不可抗力を主張できる可能性がある。

不可抗力を主張するためには、契約書の記載内容を確認しなければならない。対象となり得る企業や取引内容を確認し、該当する契約書を見つけ出す。もし紙のままで倉庫に保管されていれば、それらをひとつひとつ手で探すことになり、PDFでデータ化をしていたとしてもファイルをひとつひとつ開いて中身を確認する必要があるだろう。理想は、検索すればすぐに契約書の内容をチェックできるよう、契約書データをシステムに登録しておくことだ。

契約書が見つかったら、不可抗力条項があるかどうかを確認する。不可抗力条項の適用が可能であれば、不可抗力を主張する旨の通知書を作成し、契約書に定められた方法で相手先に送付する。ここまでの作業をいかに早く行うかが、その後の問題解決の成否に大きな影響を与えると言ってもいい。初期対応が遅れるほど、損害賠償請求のリスクが高まってしまうからだ。

不可抗力条項は、どんなときに適用される?

そもそも契約書とは、取引の当事者同士が、商品・サービスを取引する条件を定めたものだ。円滑で安定的な企業間取引には、契約書の存在が欠かせない。今回取り上げる不可抗力条項は、契約書の中でどのように記載されているのだろうか。文例を挙げて説明する。

第◯条 不可抗力
いずれの当事者も、天災、政府機関の行為若しくは命令、火災、洪水、台風、高潮、地震、戦争(宣戦布告の有無を問わない)、反乱、革命、暴動、ストライキ、ロックアウト、疫病・感染症の流行 又はパンデミック等(これらに限られない)、影響を受ける当事者の合理的な制御が及ばない状況に起因する場合、本契約又は承認された注文書に基づく義務の履行又は履行の失敗又は遅延について責任を負わない。

このように不可抗力条項には、契約当事者が責任を負わなくてよい事象が、細かに例示・列挙されている。自然災害やガバメントアクション(政府による規制など)、戦争・騒乱などのほか、インフラが脆弱な新興国では水不足や電力不足を加える場合がある。この条文に基づいて不可抗力を主張しうるケースは、具体的には下記のように「つくれない」「送れない」「サービスが提供できない」場合である。

・地震が発生し、製造ラインが被災。大規模停電で電力供給も絶たれ、製品を製造できない。
 ・輸出先国で武力紛争が発生し、輸送が混乱。製品を納入することができない。
 ・原材料の輸入先国政府が貿易を制限。原材料を調達できないため、製品を製造できない。

契約書に不可抗力条項がなかったら、どうする?

では、契約書に不可抗⼒条項がない場合はどう対応したら良いのか。実は、日本国内の取引に関する契約書には、不可抗力条項が設けられていない場合が多い。これは、わが国の民法の存在が大きい。同法には次のような条文が掲げられている。

民法第415条
1.債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

民法の考え方は、「損害賠償を請求するには、債務不履行に帰責性(故意や過失)がなければならない」というものだ。このため、日本の法律に準拠した取引では、契約書に条項を設けなくても不可抗力を主張できるのである。これは、わが国の法体系の礎が西ヨーロッパの「大陸法」であることに起因する。中国や韓国、台湾など東アジア諸国も同様だが、大陸法に影響を受けた国では、法律が私的取引の枠組みを規定している。

一方、イングランドで形成された「英米法」を採用している国では、私的取引について法律で細かく定められておらず、当事者同士で決めたことが最優先される。不可抗力についても、「定めておかないと主張できない」のが基本だ。万一、海外の企業との契約書で不可抗力条項が定められていない場合は、契約書が準拠するのはどの国の法律か、仲裁機関(裁判所)はどこかを確認して、個別に対応するしかない。

契約書は大切なもの。現場で管理するしくみづくりを

ここまで説明してきたように、有事の際にトラブルから企業を守ってくれるのは一通の契約書だ。しかし、膨大な契約書をわずかな法務担当者だけで管理するのは物理的に難しい。企業には、現場レベルで契約書を管理できるしくみづくりが求められる。

契約書管理で最も重要なのは、契約の期限をきちんと管理することだ。契約は、有効期限の範囲でしか効力を発揮しない。トラブルが発生して慌てて契約書を確認したら、うっかり更新を忘れており、対応に苦慮したという事例も少なくない。それを防ぐには、自動的にアラートが出る契約書管理システムを導入することが望ましいが、難しい場合はExcelなどで管理台帳をつくり、契約更新を忘れないようにすることもできる。また、契約書の内容についても、経済情勢の変化で取引の力関係が変化することがあるため、「3年に一度」などルールを決めて、定期的に見直していくことも重要だ。

契約書は企業に直接的な利益を生み出さないが、万一のときにリスクを最小限に抑えてくれる。法務担当者に限らず、企業で働く方々にはぜひ「契約書は大切なもの」という意識を持ってほしい。

<著者プロフィール>
佐々⽊ 毅尚
株式会社LegalForce 執⾏役員担当|⽣命保険会社、非鉄金属メーカー、電気機器メーカーなどを経て2021年LegalForce⼊社。企業法務をはじめ、コンプライアンス、ガバナンス、内部統制、リスクマネジメント、国際法務といった多様な法務業務を担当。主な著書に「電⼦契約導⼊ガイドブック[海外契約編]」(共著/商事法務出版)」、「リーガルオペレーション⾰命─リーガルテック導⼊ガイドライン(商事法務出版)」などがある。

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