世界で開発活発、「日差しに当たっていながら自発的に冷える素材」の仕組み

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日差しに当たっていながら自発的に冷える素材を研究している。というと意外に思われるかもしれないが、その原理は比較的単純で、天気予報でよく耳にする放射冷却を利用している。これは、夜間に地表の熱が、より低温の上空へと熱放射によって逃げる現象だ。実は日中でも地表から上空への熱放射は起こっているが、太陽光による加熱の方が強いため、温度は低下しない。もし、熱放射を遮ることなく太陽光を反射できれば、日中でも放射冷却によって冷える。これが、日中放射冷却の仕組みだ。

近年の温暖化・環境問題への関心の高まりから、世界中で日中放射冷却機能を持った材料の開発が盛んになっている。筆者らは、二つの独自の取り組みをしている。一つは、日本のような湿潤地域でも機能する日中放射冷却構造の開発である。実はこれまでの多くの研究は、熱放射による冷却が起こりやすい乾燥地域で行われてきた。これら乾燥地域用に開発された日中放射冷却構造は、大気の透過率の高い中赤外域の波長範囲に限定して熱放射を行っているが、中赤外域の波長は水に吸収されやすく、高湿度地域では大気の透過率が全体的に低くなり十分な性能を発揮できない。そこで、湿潤地域でも日中放射冷却が起きる試料の開発を進めている。

二つ目は、放射冷却で生じる温度差を熱電発電に利用する点である。日中放射冷却機能を持つ試料は、昼だけでなく夜間も冷える。そのため、24時間気温にかかわらず常に温度差を生じさせることができる。我々はガラスやアルミニウムなどの身近な材料を使った日中放射冷却構造と熱電モジュールを組み合わせ、熱電発電が24時間可能であることを実証した。最近では、放射冷却と太陽熱を同時に利用して温度差を生じさせ、熱電発電できる素子の開発を進めている。いくつかの異なるタイプの素子の開発を進めており、当機構の内田健一グループリーダーらとの共同研究では、磁性材料を用いてその実証に成功した。

さて、これまで報告された日中放射冷却による熱輸送は、高くても1平方メートル当たり100ワット程度で、今後研究が進んでも数割の改善しか見込めない。これは、地表と上空の温度差という上限があるためだ。電力を全く使わずに1平方メートル当たり約100ワット冷却できることは、例えば平屋の冷却にはある程度有効かもしれないが、脱炭素社会へ貢献するには十分とはいえない。そこで、今後は微細構造や物性の制御により、この上限を超える放射の実証を目指すべく、検討を始めている。

物質・材料研究機構(NIMS) 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 主幹研究員 石井智

2012年Purdue大学大学院修了、PhD取得。JSPS海外特別研究員、情報通信研究機構を経て、14年より物質・材料研究機構勤務。20年より現職。18年より筑波大学大学院連係准教授、19年よりさきがけ研究者を兼務。

日刊工業新聞2022年4月13日

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