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MS&ADHD会長が語る人材育成の真髄

「経営とは人財育成と企業文化に尽きる」

自称「自由人」で、高校時代には「組織に属したくない」と同級生に語っていた。組織のトップを経験した今、導き出した経営哲学の“解”はシンプルだ。

「企業には順調に成長する過程もあれば危機にひんする時もあるが、結局は人財の力に裏打ちされる。多様性を生かした人財育成がイノベーションを起こす上でも重要となる」

人財の力を強く認識したのが、三井住友海上火災保険の社長時代に直面した2011年の東日本大震災とタイの洪水。両方とも保険金支払額が数千億円に上ったが、社員一丸となって早期の支払いを実現することで顧客の生活再建を支えた。

人財育成の方法は「挑戦や考える機会を積極的に提供すること」。この教育論を確立した背景には企画部門を約20年間歩む中での実体験が関係する。役職が低かった主任にもかかわらず、当時の経営層や上司から業務評価制度の改定や「利益100億円モデル」の策定など、経営の根幹に関わる重要なプロジェクトを一任させてもらった。数カ月考え抜いた計画が採用されたことを感謝している。

人財育成と同様に重視するのが企業文化。

「社員やステークホルダーと共感を持って価値観を共有するプロセスが重要。企業はパーパス(存在意義)を明確にして進みたいベクトルを示すことが成長に不可欠だ」

事業活動を通じて何を実現したいかの姿勢を示すことが社員のエンゲージメント(愛着心)を高め、欧米に比べ固定化しやすい労働市場から優秀な人財を引き寄せられる。結果、組織のダイバーシティーが加速し、社会的価値を高めるイノベーション創出につながる。

経営理念には「グローバルな保険・金融サービス事業を通じて、安心と安全を提供し、活力ある社会の発展と地球の健やかな未来を支えます」を掲げる。そのため「一定の収益性と規模も追求する」と話す。社長在任時はアジアの生保会社への出資などを実施。現在の東南アジア諸国連合(ASEAN)域内保険料総収入トップのプレゼンスを堅固なものとした。

「アラビア語でリスクには“明日への糧”という意味がある。未来への挑戦を保険でサポートしたい」

世界トップ水準の保険・金融グループを創造することで、世界中の挑戦の背中を押す。(増重直樹)

柄澤 康喜氏

【略歴】からさわ・やすよし 75年(昭50)京大経済卒、同年住友海上火災保険(現三井住友海上火災保険)入社。10年社長、14年MS&ADホールディングス(HD)社長、16年三井住友海上火災保険会長、20年MS&ADHD会長。長野県出身、71歳。

日刊工業新聞2022年3月1日

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