トヨタが開催、「初心者向けラリー大会」に込めた章男社長の思い
トヨタ自動車が、主催する初心者向けラリー大会「トヨタガズーレーシングラリーチャレンジ」を起点とした地域活性化の取り組みを加速する。広島県安芸高田市で行われた初戦ではラリー会場や周辺の観光地を巡るツアーを初めて企画したほか、地元販売店と連携したイベントも実施。自治体も巻き込んで地域振興とファンの裾野拡大を目指し、将来の自動車産業活性化につなげる。(名古屋・政年佐貴恵)
観客らが旗を振る中、昔の温泉街を再現したノスタルジックな観光施設「神楽門前湯治村」から、エンジン音を響かせたスポーツ車が続々と出走した。13日に開かれた初戦にはラリー愛好家ら1500人が来訪した。石丸伸二安芸高田市長は「人口約2万7000人の町に、これだけ多くの人が来てくれた。それだけで有り難い」と喜ぶ。
MaaS(乗り物のサービス化)や自動運転などで車の役割が変わりつつある中、車ファンの増加は需要喚起や車産業の多様化といった面で重要なテーマだ。
トヨタの豊田章男社長は「ラリーが持続的に広がるには、まずは(ファン層の)底辺を広げないといけない」と断言する。初心者向けのラリーチャレンジは、その役割を担う。またラリーはコースに公道を使うため、開催地の自治体の理解も欠かせない。「町おこし」は双方がウィン―ウィンとなる方策の一つになる。
そこで今回新たに始めたのが「ラリーツーリズム」だ。観戦やラリーカーの乗車体験、毛利元就の史跡巡りなどを組み合わせた1泊2日のパック旅行を企画。募集したところ売れ行きは好調だったといい、当初の計画を上回る15組29人が参加した。
このほか地元販売店の広島トヨタ(広島市中区)が集客やイベントで協力。同社の村上敏章執行役員は「移動の手段以外の価値や楽しさを感じてもらえれば、ビジネスにもつながる」と期待する。
安芸高田市での盛況は行政の理解があったことも大きい。2021年、市職員から「市としてラリー大会には積極的に関与していない」と聞いた石丸市長は「活用しない手はないのに、もったいない」と、町おこしに生かすことを決断。職員には「ラリーチームの好きなようにさせて」と市の基本姿勢を示しつつ、コース上の穴を急きょ修復するなど、全面的に協力した。湯治村をスタート会場にする案も、市からの提案だ。
豊田社長は「ラリーという共通のプラットフォームを使い、それぞれの役割で継続的にやれば大きな力になる」と力を込める。今シーズンは各地で地域の特色を生かした振興策を企画する方針。01年から続く草の根活動が、いよいよ広がりを見せそうだ。