なぜ福島県新地町の「スマートシティ構想」は成功したのか
東日本大震災発生直後の大津波で壊滅的な被害を受けた福島県新地町。復興が進む2019年春、駅周辺地区で分散型エネルギー網が稼働した。同年秋、台風による大規模な被害が発生したが、地区の電力供給は途絶えなかった。いま、脱炭素化に向けても分散型エネルギーへの注目が高まっている。新地町の事業に携わる企業は、分散型エネルギーが地方創生につながる可能性も感じている。
新地町は福島県の最北端に位置する。JR新地駅の周辺地区にあるホテル・温浴施設や文化交流センター、商業施設、フットサル場が分散型エネルギー網でつながった。
地区内の新地エネルギーセンターに配備したコージェネレーション(熱電併給)システム5基(合計出力175キロワット)が“地域発電所”となって電気と熱をつくる。センターの運営会社「新地スマートエナジー」が“街のエネルギー会社”だ。また、コージェネの燃料である天然ガスは新地町にある石油資源開発「相馬LNG基地」からパイプラインを通じて直送されている。
地区内は自営線(独自の電力網)が敷設されている。電力会社の電気とコージェネの電気を合わせて自営線でホテルなどの各施設に送電する。太陽光発電も地域の電力需要の1割を担い、二酸化炭素(CO2)排出量を削減する。コージェネがつくった熱は吸収式温水機などを経由して熱導管から各施設に送る。
19年10月の大型台風で一時停電したが、コージェネが起動して地区内は最低限の電気を確保できた。威力を発揮したのが熱供給だ。断水が1カ月におよんだが、温浴施設は熱導管から送られてくる熱のおかげで使用でき、1日に最大1500人の住民に無料で入浴を提供した。新地スマートエナジーの出資企業である京葉ガスエナジーソリューション(千葉県市川市)プラント営業グループの岡村善裕部長は「町民に役立った」と心から喜ぶ。
大震災後、各地で分散エネルギー網の計画が浮上したが、実用化した地域は多くはない。新地町が成功した理由として岡村部長は“公設民営”をあげる。コージェネなどの設備は、町が国の支援も受けながら導入し、稼働後も町が保有する。新地スマートエナジーは運営に徹するため投資負担が少なく、低価格で電気を供給できている。また、各施設も自前でボイラーを持つ必要がなく、トータルの光熱費を抑制できる。新地スマートエナジーは電気と熱の販売収入で黒字化した。さらに4人を雇用し、地域経済に貢献している。
新地町の推進力も成功に導いた。新地スマートエナジーには町や京葉ガスエナジーの他にも10社が出資する。町の担当者が常に各社と意思疎通を図るなど「町が本気であり、熱意があった」(岡村部長)と振り返る。
CO2排出ゼロを目指す自治体が増え、分散型エネルギー導入の機運が再燃している。岡村部長は「低コストのエネルギー供給は企業や人を地域につなぎ留める」と地域活性化での利点も捉えている。京葉ガスエナジーは新地町での知見を生かし、分散型エネルギーの他地域への展開を目指す。