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加入者減の食い止め急ぐWOWOW・スカパー、動画配信大手にない魅力をどう打ち出すか

加入者減食い止め急ぐ

衛星放送事業者の加入者減が続いている。スカパーJSATの衛星放送サービス「スカパー!」の加入件数が300万件を下回った。WOWOWも2019年以降、減少傾向にある。両社は21年に有料の動画配信サービスを立ち上げ、従来の放送事業と併せて収益化を急ぐ。オリジナルドラマで人気を集める米ネットフリックスや、スポーツ専門の英DAZN(ダゾーン)など海外大手にない魅力を打ち出そうとしている。(苦瓜朋子)

両社は従来、衛星放送の加入者向けに無料で動画配信サービスを提供していた。だが、ネットフリックスなど動画配信事業者の台頭を受け、21年に放送契約のない人も動画配信単体で利用可能にした。現在WOWOWの動画配信「WOWOWオンデマンド」の加入割合は3割前後。郡司誠致取締役執行役員は「(放送を含む)全体のボリュームを大きくしつつ、早い段階に半々まで引き上げたい」と意気込む。

スカパーJSATは同年、インターネット広告のフリークアウト・ホールディングス(HD)に出資した。個人の嗜好や行動データに基づき効果的に広告を表示できるようにし、視聴者からの課金と併せて広告ビジネスも拡大する方針だ。

動画配信大手との競争軸について、いちよし経済研究所の三村恭祥企業調査部研究員は「結局はコンテンツの差別化に尽きる」と話す。

スカパーJSATは宇宙事業に軸足を移しつつあり、「メディア事業への積極的な費用投下は考えていない」(三村研究員)。スケートボードなどのマイナースポーツや、アニメを原作とする「2・5次元舞台」といった、比較的安価に調達でき、他の動画配信が手がけない領域に活路を見いだす。

WOWOWは放送、配信のみにとどまらない「コミュニティ・サービス」に注力する。選手や出演者が視聴者の質問に答えるイベントや、記者会見や練習風景の配信など、試合中心のDAZNにはない特徴を打ち出している。

ネックになりそうなのは利用料金だ。ネットフリックスは月額990円(消費税込み)から、アマゾンプライムビデオは500円(同)で1000円以下が主流。一方、WOWOWオンデマンドは衛星放送と同じ2530円(同)と高額だ。田中晃社長は「コミュニティーを含めて体験価値を向上し、高いだけのことはあると満足してもらえるサービスにする」と話すが、「加入者獲得には値下げも必要なのでは」と三村研究員は分析する。

スカパーJSATは2月、自社の動画配信「SPOOX(スプークス)」で、NTTぷらら(東京都豊島区)の配信サービス「ひかりTV」の動画が3万本見放題となるプランを月額990円(同)で始めた。1000円以下の料金帯にこだわり、低価格路線で顧客獲得を本格化させたい考えだ。

両社とも加入者の平均年齢は40代とみられる。高齢化により衛星放送市場が段階的に縮小することは避けられない。放送と配信を連携させ、他の動画配信にない魅力的なコンテンツを発掘、創出できるかが問われる。

日刊工業新聞2022年3月8日

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