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AIを用いた肉用牛の分娩検知システム「牛わか」の全容

画像解析自動検出 出産時、事故回避狙う
AIを用いた肉用牛の分娩検知システム「牛わか」の全容

牛舎に「牛わか」を取り付けた

ノーリツプレシジョン(和歌山市、星野達也社長)は、画像認識人工知能(AI)を用いた肉用牛の分娩(ぶんべん)検知システム「牛わか」を展開する。分娩が近づいた牛は、立ったり座ったり、ぐるぐる歩き回るなど、落ち着きがなくなる。分娩の兆候となる行動の変化をAIによって自動で検出し、スマートフォンに知らせることで、出産介助にかかる畜産農家の負担軽減や、出産時の事故回避を狙う。

同社はフィルム写真処理機器のトップメーカー。画像処理などのイメージング技術を生かして医療・介護領域に進出し、施設向けに高齢者の危険動作の予兆を検知する介護見守りロボット「ネオスケア」を販売していた。

牛わかは「牛の分娩兆候を画像解析でできないか」と考えた北里大学獣医学部の鍋西久准教授が、ネオスケアを知り、相談に訪れたのが開発のきっかけ。ただ高齢者の危険動作と牛の分娩兆候は、まったく異なるものであり、一からシステムの開発が必要だった。

画像認識もネオスケアでは複雑な条件文を駆使してアルゴリズムを構築していたが、牛わかは「データを“食わせる”だけで判断できる」(事業推進部要素技術開発課の面家〈おもや〉康孝氏)として、AIを採用することにした。

とはいえ、社内に専門教育を受けたAI技術者はいない。面家氏は公開されているオープンソース(OSS)のAIをカスタマイズして組み込むことにした。重要なのはAIに学習させるために「どれだけ良いデータを集めるか」(面屋氏)。東北から沖縄まで全国の畜産農家の協力を得て70万―80万のデータをAIに学ばせた。

面家氏は「どうやって製品に組み込んだら良いのか、悩みながらやってきた」と開発時を振り返る。分娩兆候を判断して6時間以内に分娩が始まる率は93%。一定程度の誤検知はあるが実用性の高いシステムが完成し、農家から喜ばれている。

同社は牛わか開発を機に、情報通信技術(ICT)を活用して畜産農家の課題を解決する「スマート畜産」への取り組みを始めた。プロジェクトの鳴尾千夏企画営業リーダーは「(AIで)簡単に開発できるのは、どんどん新製品を作る上で大事」と話す。生産性向上を実現する製品の開発に、農家から熱い期待が寄せられている。

一方、面家氏は「しばらくの課題はAI技術を社内に広げることだ」とも話す。既存製品の改善、発展にもAIを役立てられないかどうか可能性を探っているところだ。(南大阪支局長・小林広幸)

日刊工業新聞2022年2月11日

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