データから新価値創造も、ロボSIerの勝負の舞台が「ソフト」に
ロボットシステムインテグレーター(SIer)の間でソフトウエアの重要性が増している。ロボットから集めたデータの使い方次第で生産性が決まるためだ。生産効率だけでなく、収集したデータから新しい付加価値を作り出す例も登場している。また工場丸ごとのデータ収集よりもラインごと、プロセスごとのデータ活用が重要になっており、これが中小・中堅企業の多いSIerのビジネスチャンスになっている。
「全数検査は生産技術者にとっては敗北だった。だが新しい価値を作るための全数検査が広がり始めている」とリンクウィズ(浜松市東区)の吹野豪社長は目を細める。同社はロボットを駆使した溶接部品の計測システムを展開する。ロボットで溶接したら、その出来をロボットで測る。
自動車業界の生産技術者は、部品の品質は工程として作り込み、検査は変化を捉えるための必要最小限に抑える。全数検査が必要になるのはプロセスをコントロールできていない証拠で、恥ずべきこととされてきた。
だが「寸法公差(許容される誤差)は必ず存在する。公差の中でいい組み合わせを選び、組み立て後の精度を高めるアプローチが広がってきた」と吹野社長は説明する。溶接や組み立てで組み合わせる部品を、部品間で公差を打ち消し合うように選ぶ。このための全数ロボット検査が広がり始めている。
例えば電気自動車は振動の主因がエンジンではなく、車体の構造部品に起因する。EV時代の乗り心地を差別化するために、工程間の寸法データが駆使されている。
製造業にとってデータを付加価値に変えることは命題になっている。ただデータのために生産ラインを変えるのは現実的ではない。そこで新しく立ち上げるラインで挑戦することが多い。三明(静岡市清水区)の笠井茂社長は「新しい加工プロセスの自動化に挑戦してよかった。加工装置で成功し、前後の搬送自動化の仕事もとれた」と振り返る。レーザー加工の自動機を開発し、その前後の材料や部品の配膳を移動型人協働作業ロボ「AGBOT」で自動化した。
SIerにとって新規の加工プロセスは苦労が多い仕事だ。加工条件の絞り込みと搬送の自動化の両方をすり合わせる必要がある。ただ自動加工機を開発できたことで変種変量ラインの受注につながった。レシピに応じてAGBOTが材料をそろえ、レーザー加工機に投入し、回収して検査に回す。
笠井社長は「変種変量に対応するロボと運用管理ソフト。両方を提供できたことが大きい」と振り返る。変種変量の生産システムはハードはシンプルでもソフトが大きくなりがちだ。自動加工機を起点に搬送や管理ソフトまでサポートすることで、ユーザーは小さくラインを立ち上げて効果を検証できた。
ロボが生み出すデータを新しい価値につなげる方法論は見えてきた。その生産システム自体を(短期で試作と改良を繰り返す)アジャイルに構築できるようになってきた。SIerの進化がデジタル変革(DX)の一翼を担っている。