原発廃炉へ大きな一歩、5年ぶり調査ロボ投入は構造問題を変える起点になるか
2022年は東京電力福島第一原子力発電所の廃炉にとって大きな一歩を踏み出す年になりそうだ。1号機では約5年ぶりに格納容器内へ調査ロボットが投入される。19年に準備していた機体を投入するのに3年かかった。これは放射性物質などを漏えいさせず、安全に調査する環境整備に時間がかかったためだ。まだ大きさなどに制限があるものの、容器内へのアクセスルートを確立する知見はたまっている。安全対策やシステムのモジュール化などを進め、オープンイノベーションを加速することが求められる。廃炉技術開発の構造的な問題を変える基点になるか注目される。(小寺貴之)
燃料デブリ取り出し/格納容器内で切断 アクセスルート確立へ
「1号機調査で格納容器の中がどうなっているか、堆積物は何か、という情報が得られる。燃料デブリ(溶け落ちた核燃料)取り出し装置の設計に必要な情報を集めたい」と福島第一廃炉推進カンパニーの小野明代表は力を込める。福島第一では1月中旬から1号機で格納容器内調査が始まる。「X―2ペネ」という配管から遠隔操縦型水中ロボ(ROV)6機を順次投入し、デブリが溶け落ちているとみられる圧力容器の下部空間を調べる。1―2月と5―8月の2期に分けて実施する長丁場の調査になる。
1号機では炉心を収めた圧力容器の下にデブリが溶け出して地下階に広がったと推定されている。圧力容器を支える構造物(ペデスタル)の内側を調査したいが、1号機はペデスタル開口部のある側の配管は線量が高くて近づけない。そこで開口部の反対側のX―2ペネ配管からロボットを投入し、炉心をぐるっと半周してペデスタルの内部をのぞく計画だ。小野代表は「ペデスタルの内部に入るのは難しいと考える。外からのぞき込むくらいになる」と説明する。それでも内部を捉える初の映像になる。デブリ取り出し装置に必要な要件を特定してその後の設計に反映させたい考えだ。
1号機はペデスタルの外周部が調べられてきた。17年の前回調査では外周部に分厚い堆積物が広がっていることが確認されている。この堆積物の厚さや分布を高出力超音波測定で測る。事前訓練では模擬堆積物にコンクリート片や配管を埋めて超音波でどのように画像化されるか確かめてきた。破損や形状の判別は難しいものの、埋設物の配置を確認して対策を検討できる。
また3次元計測や核種分析、20立方センチメートル程度のサンプル採取にも挑戦する。堆積物の正体と、その下のデブリの分布が分かれば重要な一歩になる。
機体開発から調査開始まで期間が空いたのは、格納容器内の構造物を切断する際に放射性ダストを抑える安全対策の確立などに時間をかけてきたためだ。格納容器内の切断作業は初めてで、大きな調査装置を直接投入することが可能になった。
このアクセスルートの確立は、今後数十年続くデブリ調査や取り出しの基盤になる。これまで大学研究者などが知恵や技術を持ち寄ろうとしても、廃炉作業に必要な技術のスペックが不透明だった。コンセプトの共有に留まり、具体的な技術の設計に進めない。ある廃炉ロボの研究者は「細かな技術要件は担当している重工メーカーしか知らない。ロボットの設計や開発に着手できず、調査データの解析や炉心融解(メルトダウン)の現象理解に留まっている」と指摘する。
これはある意味当然と言える。アクセスルートを構築する東電や重工メーカーの技術者も当局と協議しながらシールボックスなどの装置を設計している。まだ確立された正解はない。オープンイノベーションよりも安全が優先される。調査や取り出しを何度も繰り返して安全管理と作業を成熟させてから、外部の知見を取り入れていくことになる。
不具合対策、複雑化/ロボがロボ修繕・・・ 緊急時の対応計画必要
国際廃炉研究開発機構(IRID)の高守謙郎開発計画部長は「廃炉の難しさは作業の安全管理や環境整備をロボットでやることにある」と評する。普通のロボット開発では故障の修理や稼働環境の整備などは人の手で行う。機械が壊れたら技術者が直し、パフォーマンスが上がるように環境を整える。ただ格納容器の中に人間は入れない。ロボットに不具合があれば、その修繕は別のロボットで行うことになる。
例えば原発2号機のデブリ取り出し装置では、取り出し作業を担うロボットアームのツールを交換したり、保守をする双腕マニピュレーターで検証作業中にボルトが破断する不具合があった。このボルトはステンレス製。操作や作業に問題があったのか、設計に問題があったのか、破断の原因を調査中だ。
ロボットの世話をするロボットに不具合が見つかるなど、安全対策のために不具合対策が入れ子構造になり、複雑さが増している。小野代表は「投入後に見つかったら対応が難しかった。投入前の検証で発見できよかった」と説明する。2号機への装置投入は22年内を目指す。
格納容器内部の作業は未知の部分が多く、複数の選択肢を用意する必要がある。ただ除染や放射性物質の封じ込めなどに時間がかかり、開発技術を投入するまでに年単位の時間を要することが少なくない。この間、開発チームを維持し、操縦者を訓練し、装置を保守するコストがかかる。そして機械の不具合を機械で対応するという構造的な問題もある。小野代表は「想定を幅広にとってコンティンジェンシープラン(緊急時対応計画)を考えていく必要がある」と説明する。
IRIDの山内豊明理事長は廃炉を小惑星探査機『はやぶさ』に匹敵するほど困難な挑戦と評する。今後、複数のアクセスルートが確立してサイズごとに格納容器内へ装置を出し入れする方法が標準化されると、大学や海外などの技術を取り込みやすくなる。
22年はその一歩を、確かな歩みとして踏み出せるか重要な年になる。