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家庭の冷凍庫においしさを届ける需給バランスの見極め

今こそ知りたい世界標準のSCM #5

家庭の冷凍庫に食品メーカー各社の熱視線が注がれている。家庭向けの冷凍食品の利用者が「巣ごもり需要」で増加しているのだ(注1)。このような中、2021年11月に冷凍食品最大手のニチレイは50億円を投じて家庭向け冷凍食品の生産能力を増強することを発表した(注2)。この決断は当のニチレイはもとより冷凍の供給システム全体にインパクトを及ぼすものでもある。このような産業レベルの需給バランスの変化を契機とした個社の経営資源配分に関する意思決定について、サプライチェーン・マネジメントの観点より考察してみたい。

SCMの世界では、商品ライフサイクルの「潮目」を見極めることが重要である

どのような商品にも一種の「ライフサイクル」がある。需要と供給のバランスの維持を旨とするサプライチェーン・マネジメントの世界ではこの需要の経年的変化を「導入期」「成長期」「成熟期」「衰退期」の4種類に整理するのが通例である(下図参照)。その見極めのポイントは、需要が次の「期」へと移行する潮目がいつ訪れるか、である。供給体制への経営資源配分は、この潮目に即してなされるためである。前述のニチレイの例は、一般的には成熟期と思われている家庭向けの冷凍食品がまだまだ「成長期」にある、と需要の潮目を読んだといえるのではないだろうか。

山本圭一・水谷禎志・行本顕「基礎から学べる!世界標準のSCM教本」より
経営のインテリジェンス機能としての「S&OP」

しかし、である。より一般的な話としては、このビジネスの「潮目」を読む重責を一体誰が負うのかという点が悩ましいところだろう。この点について、世界標準のSCMでは日頃より一種の経営インテリジェンスの仕組みを内部に持つべきことを説く。その仕組みは、販売部門が察知した中期的な需要の潮目の変化への対応案を供給部門が立案し、経営レベルで経営資源の配分方針とともに企業としての供給方針を決定する、というものである。この一連の意思決定プロセスを「S&OP(Sales and Operations Planning」という。その実装形態は各社各様多岐にわたるが、最も標準的なものとして「5ステップモデル(注3)」がよく知られている(下図参照)。

S&OPの要諦はこのような中期的な需要の潮目の変化を視野に収めつつ、毎月のルーチンとして三者間の情報のアップデートを行うところにある。そして、供給方針について、需要の後追い(チェイス)、平準化(レベル)、あるいはそれらを組み合わせ(ハイブリッド)といったアプローチのうちいずれをとるべきか吟味する。供給活動の実行と計画はこの大方針に沿って執り行われるのである。
 なお、経営インテリジェンス機能としてのS&OPの真価は、需要が伸び盛りの成長期や成熟期よりも商品のライフサイクルが衰退期に差し掛かる時に発揮される。やはり「備えあれば憂いなし」なのである。


(注1)令和 3 年 4 月一般社団法人 日本冷凍食品協会“冷凍食品の利用状況”実態調査結果について
(注2)日本食糧新聞 ニチレイフーズ、「パーソナルユース」注力 2工場に50億円投資
(注3)Thomas Wallace, Robert Stall “Sales and Operations Planning 3rf Edition”ほか

【著者紹介】
MTIプロジェクト
『基礎から学べる!世界標準のSCM教本(日刊工業新聞社)』の著者である山本圭一、水谷禎志、行本顕の三名による世界標準のSCMの普及推進プロジェクト。
プロジェクト名はグローバルSCMのコンセプトを各人の名字の一文字を用いて表した「水山行」をラテン語風に読んだ”Mare, Terra, Itinera”の頭文字より。

書籍紹介

SCMは天然資源から最終消費者までのものやサービスと意思決定の流れを統合的に見直し、プロセス全体の効率化と最適化を実現するための手法。本書は世界でビジネスをする企業に最適な、世界標準のSCMについて解説する。

書名:基礎から学べる!世界標準のSCM教本
著者名:山本圭一、水谷禎志、行本顕
判型:A5判
総頁数:240頁
税込み価格: 2,420円

<販売サイト>
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