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生物の環境応答を提唱した米スタンフォード大研究所、所長が描く問題解決への展望

2022年の日本国際賞「生物生産、生態・環境」分野に、米スタンフォード大学ウッズ環境研究所のクリストファー・フィールド所長(68)が選ばれた。フィールド氏は、植物の現地観測から光合成や成長過程などの理論研究を進めた。植物にとって光や窒素などの資源が生存戦略に重要であり、生物の複雑な環境応答が存在することを提唱した。フィールド氏に環境問題の課題解決に向けた展望や若手研究者への期待を聞いた。

技術進化、環境問題解決の好機

―生態系に関わる研究を進めてきました。

「若い頃は文学に興味があり、海外の科学的な価値についての本を読み影響された。特に哲学の言葉が自然を理解する力となり、生態系の研究を始めるきっかけになった。フィールドワークで得られた成果を理論化し、地球環境の理解を深められた。世界では環境問題への関心が高まる中で、気候変動に注目が集まっている。環境の変化には生態系の影響も大きいため、気候変動と同じくらいの需要性が得られて欲しい」

―環境問題の今後は。

「研究者としてのキャリアを積むことに時間がかかり、環境問題の解決に向けた行動ができなかったことを悔やんでいる。環境問題の現状は深刻であり、限界に向けて走り続けている。だが風力発電などの再生可能エネルギー関連の技術が確立され、化石燃料より安く二酸化炭素(CO2)などの排出量を抑えられる点から解決への兆しが見えた。研究者は技術開発が進んだことに誇りを持つとともに、環境問題の解決につながると認識することが必要だ」

―日本では若手研究者の減少が課題です。

「学生は充実した刺激的なキャリアを望みがちだ。身近な人の影響を受けやすく、若手研究者が経済的な重圧にさらされている現状を見ると研究者になる道を避ける人が増えるだろう。ただ研究者になって専門性を磨くことで、キャリアを付けられる。各国で個々の研究者を評価し、十分な支援をする制度が必要だ。研究者の将来にも魅力があると分かれば進路として選択する人が増えるだろう」

クリストファー・フィールド氏

*取材はオンラインで実施。写真は国際科学技術財団提供

【略歴】
81年米スタンフォード大博士号取得、同年米ユタ大学助教授、16年米スタンフォード大ウッズ環境研究所所長。米国出身。

【記者の目/変化見据え生活豊かに】

環境問題は世界中の課題だが、各国で科学技術を活用することで解決を目指している。フィールド氏は環境問題の解決への動きで新たな環境が生まれると予測。「新しい環境に人々が適応し、ライフスタイルが変化する」と指摘する。変わりゆく環境を見据えて人々の生活を豊かにできる技術開発を視野に入れることが求められるだろう。(飯田真美子)

日刊工業新聞2022年1月28日

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