CO2固定で注目の「耕さない農業」、自然のシステムが持つ可能性とは?

米オハイオ州立大学のラタン・ラル特別栄誉教授

 2019年の日本国際賞「生物生産、生態・環境」分野に、米オハイオ州立大学のラタン・ラル特別栄誉教授(74)が選出された。ラル氏は、土壌を耕さない農法「不耕起栽培法」が土壌浸食を防ぐことを実証し、普及に貢献した。手法は土壌を肥沃(ひよく)にすることに加え、大気中の二酸化炭素(CO2)を減少させる効果もあり、持続可能な開発目標(SDGs)にも大きな影響を与えている。

 ―研究を始めたきっかけと、その中で感じることは何ですか。
 「私は農家の出身で、若いころから土壌資源、土壌科学の必要性を感じていた。農業経営は非常に大変な作業だ。いかに生産性を高め、システムを改善するか、農業が尊敬されるには何が必要なのかと疑問を持っていた」

 「研究の中で農業が抱える問題がアジアやアフリカ、中米や南米でも全て同じで、自然のシステムを活用することが解決策になると感じた。土壌を理解し、管理システムを改善することは、生きることに直結する重要なことだ。土壌科学の重要性について認知度を高めるため、小さな子どもたちへの教育も大切だ」

 ―大気中のCO2を地中深くに戻す「CCS」と、今回受賞理由となった「不耕起栽培法」との違いは何ですか。
 「CCSとは、発電所などで排出されたCO2を回収、圧縮して液化し、地中1万フィートの深さ、または海底に封じるという方法。私たちが提唱する不耕起栽培法による炭素固定は、自然のプロセスを使っている。植物が成長するとCO2から炭水化物を作り、枯れる。さらに枯れた植物が土中に残り、微生物により腐食がおきて炭素が取り込まれる。この現象は地中表面の30―50センチメートルで起きていることだ」

 ―二つの手法のどちらが優れていますか。
 「よく聞かれるが、どちらがいいかは言いがたい。炭素固定量は、不耕起栽培法では1ヘクタール当たり年間0・5トンで、一方CCSで10万トンだ。しかし不耕起栽培法では土壌の質が改善され、農業生産性が向上する。二者択一ではなく、両方の手法が必要になるだろう」

 ―土壌科学の発展に期待することは。
 「日本国際賞が土壌科学を評価してくれたことは大きな意味がある。ノーベル賞が今まで農業分野を評価したことはなかった。世界的な農業人口の減少は、食糧供給問題に直結する。農業は評価されてしかるべきだ。さらにその評価が報酬に反映されなければならない。農業が尊敬され、教育においても農学にいい学生が集まってほしい」

【記者の目/関心の高まり期待】
 ラル氏は、「食料を生み出す土壌は、当たり前のものではなく貴重な資源だ」と訴える。農業を守るという議論では、高度な技術を使った省力化などに焦点が集まりがちだ。しかし土壌科学という農業において非常に基礎的な学問こそ、持続的な生産を支えている。日本国際賞の受賞をきっかけに、土壌科学への関心が高まることを期待する。(安川結野)

ラタン・ラル特別栄誉教授


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日刊工業新聞2019年1月23日掲載

梶原 洵子

梶原 洵子
01月28日
この記事のファシリテーター

原田マハさんの小説「生きるぼくら」に、主人公の祖母が続けてきた“田んぼを耕さない・肥料を施さない・農薬を撒かない”米づくりが象徴的に描かれています。今回受賞された不耕起栽培法と同じかどうかはわからないのですが、自然の持っている可能性はもっと見直されていってほしいです。

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