ニュースイッチ

広がる製造現場の自動化領域、ロボット活用のモノづくりが変わる

製造現場で自動化の対象領域が拡大している。これまで工作機械やロボットなどそれぞれの分野・設備ごとに作業の高速化や高精度化、高品位化が図られていたが、その垣根を越えた連携が求められ始めた。工作機械に搭載するコンピューター数値制御(CNC)装置とロボットの連携や、一つのコントローラーでセンサーやロボットを一体制御するなどの取り組みが加速する。コロナ禍で自動化に対するニーズが一層強まる中、ロボットを活用したモノづくりが大きく変わりつつある。(川口拓洋)

ファナックはCNC装置でロボットを制御する機能を提供する。CNC装置と産業用ロボットの両方を手がけるメーカーとして相互連携を加速し、工場の自動化を後押しする。CNC装置を搭載する工作機械メーカーはロボットを組み込みやすく、工作機械を使うエンドユーザーはロボットを操作しやすくなる機能だ。

同社の工作機械とロボットをつなぐシステムは「CNC―QSSR」の名称で展開する。イーサネットケーブル1本でロボットとCNC装置を接続する「QSSRコネクト」や工作機械で使うGコードでロボットを制御できる「同G―コード」、デジタルツイン技術を適用しパソコンでロボットの経路を自動生成する「同オートパス」などを提供する。

オムロンはロボットやセンサーなどの統合制御を推進する

既設の工作機械へロボットを簡単に後付けできる機能「QSSRオン―サイト」も用意する。既設機のCNC装置にある外部機器と通信できる変数の機能を活用。ロボット側のプログラムでこの変数の信号を監視する。変数が一定の値になるとロボットが読み取り、工作機械のドアを開閉したり、加工対象物(ワーク)の交換をしたりする。これまで工作機械にロボットを後付けするには、機械側のシーケンスプログラムの変更やソフトウエアのアップデートが必要だった。

ファナックのCNC装置を搭載した工作機械は約300万台に上る。一方でロボットと工作機械の連携を実現している製造現場はまだ一部。QSSRで連携を支援する。

三菱電機もCNCと産業用ロボットを連携する機能「ダイレクト・ロボット・コントロール」を提供する。CNCからロボットを制御する。同社のCNC装置「M800/M80シリーズ」以降に搭載する。イーサネットなどのLANケーブルで、CNCとロボットコントローラーを接続。CNCのGコードプログラムによるロボット制御を実現する。

ロボットに必要な制御をCNCの画面などで実行可能。ロボットに慣れていない工作機械ユーザーでも、容易にロボットを利用できる環境を整える。工作機械にワークを出し入れするローディングやマシンテンディングなどの作業を自動化する。

従来はプログラマブルコントローラー(PLC)などの上位コントローラーを中心に、ロボットコントローラーや工作機械に搭載したCNCをそれぞれ接続していた。三菱電機のダイレクト・ロボット・コントロールではロボットコントローラーからイーサネット経由でCNCに直接つながるため、上位コントローラーが必要ない。これにより、関連する費用や設備の立ち上げ時間を削減・短縮できるメリットが生まれる。

三菱電機産業メカトロニクス製作所NCシステム部では「ロボットプログラミング言語を覚えることが一つのハードルだった。工作機械とロボットの連携進展は、自動化する領域が製造現場で広がっていることを意味する」と背景を話す。

工場全体の自動化を見据える(安川電機の「YRM-Xコントローラ」)

ダイレクト・ロボット・コントロールでは三菱電機のロボットのほか、独KUKAのロボットを制御可能。三菱電機のロボットは可搬質量20キログラム程度までの比較的軽量領域で事業を展開する。重量領域はKUKAと連携する形で顧客ニーズに対応する方針だ。

OKKは三菱電機の同機能を活用し、ロボットパレット交換システム「CRASYS」を展開する。工作機械とロボットの連携をパッケージ化。三菱電機はCNCと産業用ロボットを提供、工作機械やエンジニアリングはOKKが手がけ、システムとして拡販する。

製造現場のロボットとセンサーなどの制御機器を一つのコントローラーで統合制御する取り組みを進めるのはオムロン。「ロボット統合コントローラー」をコアに組み立て作業などを自動化する。

同機能の特徴はPLCの言語でロボットが動かせることにある。センサーやコントローラー、安全装置などとロボットをソフトウエアですり合わせる。これまではワークが所定の位置に置かれて、初めてロボットが動いた。だが、統合コントローラーでは数秒後にワークが既定の位置に到着することを見越し、ロボットは数秒前に動き始める。ロボットの待機時間がなくなり、装置全体のパフォーマンスが向上する。

安川電機は装置や産業用ロボットなどで構成した生産区域「セル」の多用なデータを高速・リアルタイムで時系列に同期し、統合的制御する「YRM―X(テン)コントローラ」を提供する。

同社が重要視するのは生産設備の稼働状況(データ)だ。安川電機の強みであるサーボモーターやインバーター、ロボットを中心とした製品を介してデータを収集・見える化し、蓄積・解析を行うソフト「安川コクピット(YCP)」とYRMを組み合わせることで精度の高いデータを同じ時間軸で分析し、結果を生産設備にフィードバックできる。

各社はそれぞれが持つ競争力のある技術や製品を武器に、自動化領域を広げている。装置単体から、複数装置へ、さらには工場全体の自動化を見据える。高機能で使いやすいシステムを提供し、エンドユーザーの付加価値向上を目指す。

日刊工業新聞 2022年1月5日

編集部のおすすめ