2050年に温室効果ガス排出実質ゼロへ、日本の原子力はどう位置付けられていく?

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15年に九電の川内原発1号機が再稼働したのを皮切りに、国内では現在9基が稼働している(九州電力川内原発)

未曽有の被害をもたらした東日本大震災から10年の歳月が流れた。エネルギーを取り巻く環境は様変わりしている。政府は2050年に温室効果ガス排出の実質ゼロを宣言。再生可能エネルギーの大量導入が必要となり、原子力の位置付けも問い直されている。わが国の産業競争力にも直結する将来のエネルギーの姿をどのように描くのか。今夏にエネルギー基本計画の改定も控える中、エネルギー産業の行く末を探る。

福島の記憶

11年3月11日、津波に襲われた東京電力(現・東電ホールディングス)福島第一原子力発電所(福島県大熊町、双葉町)は電源を喪失。シビアアクシデント(過酷事故)が発生し、日本の原子力産業は重大な転機を迎えた。福島第一の事故を教訓に新規制基準が定められ、国内の原発は適合性審査を受けるために次々と停止。54基あった原発は13年10月に稼働ゼロとなった。

15年に九州電力・川内原発1号機(鹿児島県薩摩川内市)が再稼働したのを皮切りに、現在は9基が稼働している。それでも国内の原子力発電量は10年度比で約8割減の657億キロワット時にとどまる。

21年は世界で初めて原子力発電に成功してから70年の節目でもある。1951年12月20日、米アイダホ国立研究所の高速実験炉が発電し、4個の200ワット電球が灯(とも)った。時は流れ、21年1月時点の世界の原子力発電所は442基、総発電出力は3億9306万キロワットに達する。

中ロの攻勢

国別の発電量では米国がトップで、猛追しているのが3位の中国と4位のロシアだ。10年から20年までに新規運転した原発64基のうち、中国だけで37基と過半を占める。中国は15年に原発の海外輸出を加速し、「原子力強国」を目指すと表明。英国において中国製原子炉「華龍一号」のプロジェクトを進める。

ロシアは国内で3基を建設中で、海外では36基の新設プロジェクトを抱えている。基盤整備から人材育成、資金調達、燃料サイクル、運転、廃炉まで原子力のトータルライフにわたって対応できる強みを打ち出す。

中ロの台頭に対し、米、フランス、英、カナダも次世代革新炉の積極的な開発に乗り出している。米エネルギー省は小型モジュール炉(SMR)の開発支援計画を発表。米ニュースケールのSMRは29年に運転開始を目指す計画だ。英国ではロールスロイスのSMRが29年に運転を目指している。

日本の道筋

日本はどうか。政府は20年12月に「グリーン成長戦略」を発表し、次世代革新炉をロードマップに組み込んだ。だが、これまでのところ国内メーカーに表立った動きはない。ある原子炉メーカーは「具体的に動きだすには、顧客がついて資金がつかないと難しい」と打ち明ける。

梶山弘志経済産業相は「現時点で原発の新増設、リプレースは想定していない。まずは再稼働」とし、審査中の原発再稼働に注力する姿勢だ。今なお国内世論において原発に対する安全性への懸念は払拭(ふっしょく)されていない。日本原子力産業協会の新井史朗理事長は「安全対策は確実に向上しているが、きちんと理解して頂けていない。一般の人にもっとわかりやすく伝える必要がある」と課題を認識する。

まずは既存の軽水炉の安全性を高め、それがしっかりと認知されることが重要だ。それまで原子力の技術や知見を絶やすことなく積み重ねなければ、日本は世界から取り残される。

日刊工業新聞2021年3月11日

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