“異例体制”で始動した自工会、その背景にある強い危機感

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オンラインで会見する豊田自工会会長

2022年、日本自動車工業会(自工会)が“異例の体制”をスタートさせる。初めて3期目の続投となる豊田章男会長(トヨタ自動車社長)をトップに、副会長には軽自動車から商用車、2輪車までの経営トップが勢ぞろいする強力な布陣だ。CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)に加え、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)など、からみ合う複雑な課題の解決に自動車業界としてオールキャストで挑む。(名古屋・政年佐貴恵)

「大改革が必要な時だからこそ、同じリーダーのもとでやっていきたいとの声をもらった。これまでの危機対応で得た私自身の経験が、この難局を乗り越えるための役に立つなら、と思い引き受けた」―。豊田会長は決意をこう述べる。5月に正式発足する新体制は豊田会長を筆頭に、副会長は現状の4人から6人に増員。ヤマハ発動機の日高祥博社長、いすゞ自動車の片山正則社長、事務局の永塚誠一氏が続投し、日産自動車の内田誠社長と、スズキの鈴木俊宏社長が新たに加わる。ホンダは現在副会長を務める神子柴寿昭会長から、三部敏宏社長に交代する。

豊田会長は「日本の自動車産業の強みは乗用車、商用車、軽自動車、2輪車の全てのジャンルに優れた技術を持つ企業がいるフルラインアップだ」と認識。新体制について「フルラインアップの自動車産業を皆で発展させる体制が整った」と評価する。自工会関係者も「業界各社のトップが議論できる体制に、かなり期待している」と話す。

次期体制は同一会長が3期、6年を務めるのもさることながら、競合同士のメーカートップが顔をそろえるなど過去に例がない。背景には100年に1度とされる、業界の大変革に対する強い危機感がある。

自動車は素材から完成車まで産業の裾野が広い。自工会は20年度の日本における自動車産業の経済波及効果を約49兆円と試算する。グローバルでも、各国は雇用に大きな影響を与える自動車を重要産業に位置付ける。一方で、脱炭素化を筆頭に、各国・地域はローカライゼーション(地域化)を強め自らに有利になるような政策を展開しており、各国の代表産業である自動車は、より政治的な意味合いが強まっている。

自動車は素材から完成車まで産業の裾野が広い(日産の栃木工場)

業界としての発言力を高めるには、各社の結束が欠かせない。日高副会長は「呉越同舟の組織なのか、本当にチームとしてやっていけるのかを話し合い、(次期)会長、副会長の7人が日の丸で戦っていこうという決意をきちんと固めた」と力を込める。三部次期副会長も「業界全体での大変革が必要で、自工会が一体になることが不可欠だ」と話す。

“異例”とも言われる豊田会長の続投だが、組織のトップが長く指揮を執るメリットは、方針をぶらさずに長期目線での戦略に取り組める点だ。2度目の会長就任となった18年以降、豊田会長は大きなテーマの一つに「自工会改革」を掲げ主導してきた。「自工会を機動的な組織にする」という戦略の連続性は、変革への対応力を増した次期体制の素地となっている。

【組織にスピード感】モノづくり人材守り抜く

改革のきっかけとなったのは、来場者数を大幅に増やした19年の東京モーターショーだ。「(展示の仕方など)大きくやり方を変えたことで当初は反発もあったが、意志を持って行動を起こせば現実は変えられると実感した」(豊田会長)。この体験を基に抜本的な改革に着手し、20年10月に大幅に組織を変更。300もの事業を棚卸しして委員会の数を12から5に、部会は55から30へとほぼ半減した。

合わせて理事会を「名実ともに自工会運営の中心で実質的な議論、決定の場」と明確に位置付け、全ての委員会を理事会直下に配置。理事の数を36人から17人に減らした。組織の多層化も是正し、意思決定を迅速化。前例踏襲型で硬直したイメージの強い業界団体のあり方に、メスを入れた形だ。

組織変革の手応えとして、豊田会長は「コロナ禍で『日本のモノづくりを支える人材を守り抜く』『経済復興のけん引役となる』という二つのミッションを共有した現場のメンバーが動きだした」ことを挙げる。各社の製造現場が自発的に取り組んだ医療物資の生産支援、資金繰りに苦しむ部品メーカーなどの資金調達支援、コロナ禍でいち早く回復し経済を下支えした自動車販売・生産は、その一例だ。

次期体制の重点テーマの一つが「カーボンニュートラル」だ。自動車だけでなくエネルギーや素材など幅広い産業が関わり、政策とも密接に絡むだけに、業界団体として目指す方向性や目標、中長期の戦略などを打ち出し働きかけていくことが重要になる。

内田次期副会長は「日本には非常に優れた技術があるが、それを事業にするには少しスピード感が足りない部分があった」と指摘。「いかに日本の産業を強くするか。新たな体制で皆といろんな意見を交換して力をつけたい」と意気込む。自工会改革の本領を発揮できるかが注目される。

【サプライヤー「方針の連続性」歓迎】

3期目の続投が決まった豊田会長。内定を受け21年11月に開いた会見では「任期延長の要請を受けるべきか、最後まで悩んだ」と心情を吐露した。この言葉が示すように、次期会長を決める過程には多少なりとも葛藤があったようだ。

これまでの自工会会長はトヨタ、日産、ホンダが1期2年の任期を持ち回りで務めていた。この慣例が2度も見送られ、かつ前例にない3期6年という任期に対し、自工会関係者は「懸念を示す声もあった」と明かす。

しかし、業界首位であるトヨタはダイハツ工業、日野自動車を傘下に抱えると同時に、SUBARU(スバル)、スズキ、マツダ、いすゞと資本提携し、日本の大半のメーカーと連合を組んでいる。また、これまで輪番で自工会会長を務めてきた日産とホンダは、最悪期を脱したものの今も構造改革の途上にある。自工会を良く知り、改革をまとめてきた「豊田会長でなければ務められないのでは」との声が大きく、最終的には「会員各社が一つにまとまり、続投をお願いすることになった」(片山副会長)という。

周辺のサプライヤーからは歓迎の声が聞かれる。正解の見えない激変期だけに「方針に連続性があることはいいことだ」(駆動部品メーカー幹部)。新体制の発足で改革に一定のめどをつける自工会。22年度は山積する課題の解決に向けてアクセルを踏み込んでいく。

日刊工業新聞2022年1月4日

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