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COP26で「ゼロエミ車」移行宣言、日系自動車メーカー首脳の反発

COP26で「ゼロエミ車」移行宣言、日系自動車メーカー首脳の反発

ハイブリッド技術で先行する日本もEVシフトへの準備は着々と進む(トヨタのEV専用車「bZ4X」)

英国やオランダ、カナダなどの有志国と大手自動車メーカー6社などが、2040年までに世界全体で販売する新車すべてを二酸化炭素(CO2)を排出しない「ゼロエミッション車」にすることで合意した。国連の気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)という注目の場で打ち上がった自動車の脱炭素問題。石炭火力発電が退場を迫られたように、ガソリン車への風当たりが強まるのか、予断を許さない。(編集委員・松木喬、江上佑美子、高田圭介)

COP26が開催された英グラスゴーの会場で10日、英国が「交通」をテーマとしたイベントを開き、ゼロエミッション車への移行宣言を発表した。ゼロエミ車の明確な定義はないが、電気自動車(EV)を念頭に置いていると考えられる。

宣言はA―Hの8通りがあった。Aは「40年までのゼロエミ車移行を推進する政府」で、英国など欧州諸国にカンボジアやカナダ、チリなどが加わった。現地で日本の記者団に対応した経済産業省幹部は「比較的、小さな国が多い。大きな市場を抱える米国や中国は参加していない」と冷静に分析した。

Bは「ゼロエミ車の普及に賛同し、先進国に支援を求める途上国」で、インドやメキシコなど10カ国が署名。Cは都市を対象としており、米ニューヨーク市や米カリフォルニア州、韓国ソウル市など39自治体が参加。Dはメーカーで、米ゼネラル・モーターズ(GM)や米フォード・モーター、独メルセデス・ベンツなどが名を連ねた。

日本政府はどの宣言にも署名はしなかったが、同日の閣僚級会合でゼロエミ車を世界に普及させる行動計画には賛同を表明した。その行動計画を議論する会議の共同議長には英国と米国が選ばれた。米国も宣言には不参加だが、具体策の議論には議長として参加する“したたかさ”がうかがえる。

COP26でEVシフトは主要議題にならなかったが、今後の国際交渉に影響を与えそうだ。17年のCOP23では非政府組織(NGO)が石炭火力の廃止を各国に迫り、カナダや英国などが脱石炭連盟を発足。当時も交渉テーマではなかったが、現在の“脱・石炭”の潮流を生んだ。国際エネルギー機関によると、世界全体のCO2排出量のうち運輸部門が24%を占める。

一方、地球環境戦略研究機関の田村堅太郎プログラムディレクターは「実際の行動が注目される」と指摘する。過去、有志国連合による宣言は具体的な対策に進まなかった先例もあるためだ。また、22年のCOP27はエジプト、23年のCOP28はアラブ首長国連邦(UAE)で開催される。交渉テーマは議長国の裁量でもあり、ゼロエミ車の議論は進展しない可能性もある。

電動車戦略「官民一体で」

日本の自動車メーカーはゼロエミ車への移行宣言に賛同していない。エンジンとモーターを併用するハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)の技術で先行するためだ。実際、国内で普及する電動車も大半がHVだ。

日本自動車工業会(自工会)の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)は「日本の自動車産業はいち早く電動車の普及に取り組んだ。今後数年でやるべきことは技術的なアドバンテージを生かし、今ある電動車を使ってCO2を最大限減らすこと」と強調。「カーボンニュートラル温室効果ガス排出量実質ゼロ)において敵は炭素で内燃機関ではない。炭素を減らすには国や地域の事情に見合った取り組みが必要」と指摘する。

各社の首脳もベクトルは同じ。COP26での宣言についてマツダの丸本明社長は「各国の電力事情や顧客の要望を反映し対応する。化石燃料の発電比率が高い中でEVを増やしても、結果的にCO2は増える」とクギを刺す。スズキの鈴木俊宏社長も「電動化のスピードややり方は国や地域によって異なる。一気に進むことは考えられない」と話す。

その中で日系各社は電動車戦略をどうかじ取りするのか。トヨタは同社初のEV専用車を22年半ばに投入する計画。中国や米国、欧州、日本を中心に販売し「出遅れ気味」との指摘もあるEVで本格攻勢をかける。ただし、HVや燃料電池車(FCV)など電動車に全方位で対応し、顧客・地域のニーズにきめ細かく応える方針は堅持する構えだ。

EVで先行する日産自動車も、EVに加えて独自のHV技術「eパワー」搭載車を電動車戦略の柱に位置付ける。

SUBARU(スバル)はEVを22年半ばまでに世界各地で発売予定だ。一方で中村知美社長は「EVの市場が成熟していない中、(EVへの傾注は)経営として危険」と慎重な見方を示し、「EVだけでなくHVの開発も進める」と話す。

半面、電動化に深く踏み込んだのがホンダだ。40年までに世界で販売する新車を全てEVとFCVにする方針だ。宣言には参加していないが「脱炭素化はスピード感を持って取り組むべき課題であり、ホンダの使命」(広報)とした上で、「個社のみでは達成できず、官民一体の取り組みが不可欠」との姿勢を示す。

自動車メーカー幹部からは「欧州のためのルールではないか」との声も聞かれる。ただ、HVを含めエンジン車の販売への逆風はますます厳しくなるとみられる。自動車各社はグローバルで存在感を発揮し続けるため、一層難しい判断を迫られることになりそうだ。

35年新車「100%電動化」

今回の合意で日本や米国などが署名を見送ったが、萩生田光一経済産業相は12日の会見で「登り方の違いであり、分断には至らない」とあくまで電動化に否定的でない認識を示した。

政府は20年末に策定したグリーン成長戦略でHVを含む電動車普及への旗幟(きし)を鮮明にしている。21年6月の改定版には「35年までに乗用車新車販売で電動車100%」と改めて示しており、国内での布石を徐々に打ちつつある。

19日にまとめる経済対策には、電動化推進に不可欠な蓄電池の製造基盤確立に向けて、国内での大規模投資に対する補助やサプライヤーの業態転換支援などを盛り込む予定で調整している。次世代蓄電池やモーターの開発で最大1510億円を投じる研究開発プロジェクトを22年2月にも始める計画も打ち出すなど、産業構造の転換や新たな基盤構築へ向けての思惑が透けて見える。

経済対策には充電インフラや水素ステーションの整備支援も盛り込む方向で検討しているが、走行距離や寒冷地対策など、利便性の不安を解消できるかも問われる。

周辺分野も含めると国内でおよそ550万人を抱える自動車産業。電動化に伴う雇用への影響やHVの扱いなど国内状況を踏まえつつ、「登り方の違い」を経て他国と同じ頂上にたどり着けるかは、何度も訪れる分岐点での見極めが重要になりる。

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