アステラス製薬はなぜ「金曜日16時退社」を定着できたのか
アステラス製薬は他社に先駆けて、毎週金曜日は16時に退社する「ファミリーフライデー(FF)制度」を運用してきた。導入は働き方改革や新型コロナウイルスの感染防止にリモートワークが推奨される前の2009年にさかのぼる。コアタイムなしのスーパーフレックス制度も導入し、21年11月には本社内のフリースペースを拡充するなど、従業員にとって最適な働き方や職場環境を追求している。(編集委員・丸山美和)
アステラス製薬の定時は8時45分から17時45分だが、金曜日だけは終業が16時だ。16時にはほとんどの従業員が会社を後にする。自己啓発に時間を使うほか、「単身赴任者からは『家族の元に早い時間に帰れる』といった声が届いている」(小西達也人事部次長)。社内を回って「早く帰ってください」と呼びかける必要もなくなり、金曜の16時退社は着実に根付いている。
FF運用前は、実労働時間が長い人も多かった。07年に「ワークライフバランスの充実と生産性の向上」で労使が合意。1年をかけて、従業員へのワークライフバランスの意識付けやマネージャーへの教育を施し、当時の社長自らがトップメッセージとしてその重要性を何度も訴えた。
当初、毎日の終業時間を15分早めるやり方だったが、金曜日にまとめて繰り上げる方が効果も高いとして、金曜16時退社を正式に採用した。この結果、労働時間を年間で80時間削減できた。
安定生産が必要な工場では時短導入は難しかったため、時短休日を設定したが、本社従業員との差を無くすため、21年4月から工場もFF制度の運用を始めた。「以前とは作る薬も体制も変わっており、工場で運用できると判断した」(同)。
同じく4月からは、コアタイムがない「スーパーフレックス」を医薬情報担当者(MR)にも採用し、ほぼ全職種に拡大した。「それぞれの業務に合わせて、従業員がフレキシブルに働けるよう、改善、工夫している」(同)という。このほか、一定の条件を満たせば、配偶者と同居可能な地域で勤務できる「結婚時同居支援」などの制度も導入した。
出社せずに自宅などで働くリモートワークは、すでに09年から導入済みだ。現状の出社率は平均で30%程度だが、11月には本社内にあったフリースペースを改装し、面積も拡大した。間隔を空けて作業できる机や周囲を気にせずオンライン会議に参加できる個室も備えた。事前に予約すれば、好きな場所で仕事ができる。向き合って話ができる机で打ち合わせをしていた社員は、「随分、使いやすくなった。開放的で気分転換もできる」と歓迎する。
さまざまな制度導入などを進めてきた今、見えてきたこともある。新型コロナの感染拡大以降、有休の取得率が減少した。「『あえて休まなくても対処できるとする社員が多いのでは』と考えられる」(同)。こうした事案もあらためて分析し、必要に応じて改善していく計画だ。