国家備蓄の売却で石油業界に広がる戸惑い、むしろ増えた「心配の種」
政府が石油の国家備蓄の一部売却を決めたことに対し、石油業界には戸惑いが広がっている。石油連盟の杉森務会長は25日の会見で「日常の油種の入れ替えと同じで、効果は限定的では」との見解を示した。石油業界は安定的な価格の推移を望んでいる。バイデン米政権の要望に応じ、6カ国が協調して備蓄を放出することに対し、産油国がどう反応するのか心配の種が増えた。(編集委員・板崎英士)
今回、通常行う国家備蓄の油種入れ替えを先取りする形で国際入札に出す。国内の元売りが販売先として有望だが、果たして政府の思惑通りに進むのか。「古くて重くて使いづらい油種から売却するだろう。各社は需給を見て札を入れるか判断する。高ければスポット市場で調達するだけ」と杉森会長は言う。
元売り各社は必要量の7―8割は産油国と年間契約を結び、残りはスポットで調達している。その範囲なら入札に応じられるが、あくまでも条件が合えばの話だ。また、落札額が安ければ油価は下がるが安値では落札できない。「量も限定的なので効果は期待できないだろう」(杉森会長)と見る。業界関係者には「産油国との関係で、目立つ買い方はしたくない」という本音もある。
わが国の石油備蓄は国家備蓄と民間備蓄、産油国共同備蓄の三重構造だ。国家備蓄は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が管理しているが、保管場所は10カ所の備蓄基地のほかに、民間石油会社などの基地も借りている。民間タンクで保管している原油で条件が合えば、物理的な輸送や保管を伴わずに油種の入れ替えは可能だ。ただ業界からどの原油を出して欲しいとは言えないため、政府の判断が注目される。
備蓄放出より先に、政府が高騰するガソリン価格の激変緩和策として、3月までに限定した元売りへの補助金政策にも課題が多い。全国平均で1リットル=170円を超えた際に値下げ原資として元売りに5円分の補助金を出すが、販売価格を決めるのは各ガソリンスタンドの経営者のため、実際にどの程度が下がるかは未知数だ。
22日時点のガソリン価格は、2週連続で下がり168円70銭。ただ、地域に競合店がない店と、幹線道路沿いに立ち並び競合店の多い店舗では値付けの状況は異なる。利益を削ってきた経営者が、この5円分を利益に回したいと思っても、ユーザーの目があり高い価格は付けづらい。杉森会長は「元売りは補助金全額を卸に回すだけ。政府には小売りと消費者間で誤解が生じないよう、激変緩和措置という趣旨とスキームをしっかり説明してほしい」と要望する。
12月はじめには石油輸出国機構(OPEC)と非加盟産油国で構成する「OPECプラス」が開かれる。11月は日米など石油消費国の増産要請を断っているが、今回の協調備蓄放出にどのような反応を示すのか。「産油国との関係悪化はないだろう」(杉森会長)とは言うが、業界は固唾(かたず)をのんで見守っている。