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試作品を用いて安全性、製造性をチェック。「設計検証」の7項目とは

雑誌『機械設計』連載 アイデア品を販売したい! 製品化プロセスのイロハ 第8回 試作品での設計検証
 

CADで設計した試作部品を部品メーカーに発注するところまでを、前回お伝えした。今回は、購入した試作部品での試作品の組立てと、その後の検証に関してお伝えする。連載第5回でお伝えした設計審査は、試作部品の発注前にCADデータや部品表などを用いて行うものであったが、設計検証は組み上がった試作品を用いて行うものだ。検証の内容は下記の7項目になる。

 ①製品仕様
 ②安全性(一部は法規制)
 ③信頼性(一部はJIS規格など)
 ④製品の製造性
 ⑤部品の製造性
 ⑥サービス性
 ⑦社内規格
 ⑧コスト
 

①の製品仕様とは、設計構想書に記載した内容に試作品が合致しているかの確認である。例えば、プロジェクタの設計では、スクリーンに投影した画面の明るさやファンの騒音レベルを試作品で測定することになる。明るさはより明るい方が、またファンノイズはより静かな方が良く、自社製品の優位性をうたう値として定めているものだ。必要な項目はカタログなどに記載している。もし、定めた値を満足できなければ、製品仕様の変更が必要になる。しかし、この変更は製品の優位性を削ぐものであり、また新製品のアピールとしてすでに社外に情報を出しているものであれば、その情報の修正も必要になる。よって、むやみに変更できるものではない。

 

⑦の社内規格は、自社製品の品質レベルを一定以上に保つために、自社で定めた規格や文字の表示方法の自社ルールなどである。自動車のボルボが頑丈なのは、独自の社内規格があるからと考えられる。⑧のコストは連載第3回で詳しくお伝えしてあるので、そちらを参照してほしい。

安全性の検証

 

安全性とは、製品を使用する人やその使用環境にある財産(家など)に危害や損害を与えてはならないことだ。例えば、内蔵バッテリーが高温になりすぎて発煙や発火しないか、また部品が燃えて溶けても、製品の外部に出てくることはないかなどの規定がある。また、一定以上の力で押して製品が倒れたり、壁に取り付けた製品が地震で落下したりして、人に危害を加えることはないかなどの規定もある。

信頼性の検証

 

信頼性とは、製品が想定した環境で製品仕様を果たすことである。腕時計の防水性や照明の耐用時間(寿命)など製品の優位性としてカタログに記載するものと、機能ボタンが繰返し押されて破損することはないか、輸送中の振動や落下で製品が壊れることはないかなど、カタログに記載しないものがある。また、JIS規格や業界標準で試験方法が定められているものとそうでないものがある。信頼性は3次元CADデータを用いたシミュレーションでまず検証し、そのデータを元により詳細な検証を試作品で行うと効果的だ。

 

海外の人から日本製品の「品質が良い」と言われるゆえんは、この信頼性の中でもカタログに記載されない内容が日本製品は優れているためであると考えている。過剰品質と思われる内容もあるかもしれないが、それが日本製品の優位性であって、それを単に無駄と判断してはならない(図1)。

信頼性の試験の準備

 

信頼性の試験で試作品が破損し、再使用できなくなってしまうことは多い。例えば、ドライヤーのようなハンディータイプの製品が手から落ちることを想定した落下試験では、実際に試作品をある高さから床に落とすため、再使用できなくなる場合が多い。また、野外で使用する製品へのほこりの侵入を想定した砂塵試験では、試験後に試作品が内部の隅々までほこりだらけになるため洗浄できず、再使用は難しい。

 

このように、1回の試験で試作品に加わるダメージが大きいと、それは再使用できなくなるため、試験の準備で試作品の組立方法や設定値、試験中の入力値に間違いがあったり、また試験装置の扱いを間違えたりしてはならない。試作部品は高価であるため、個数に限りがあるからだ。実は、筆者も何度かこのような失敗をして、試作品をほかの設計者からしぶしぶ貸してもらった経験がある。

 

こうしたことから、試験前の準備はとても大切だ。以下に、筆者の失敗エピソードと試験前の準備で気を付けることをお伝えする。

ブラウン管の後端のガラスが割れる

 

ハンディー型モニタの設計をしていた頃の話である。当時はまだ液晶パネルのないブラウン管の時代であり、小型のブラウン管を用いた試作品の落下試験を行っていた。ブラウン管の後端には小さな基板が付いており、その基板上にリード線の付いたコネクターが挿さっていた。経験上、落下試験によってブラウン管の後端が約10mm上下に動くことがわかっていたため、基板の上下左右には余裕をもって約20mmの空間距離を空けて設計を行っていた。ところが試験を行ったところ、ブラウン管の後端のガラス部が割れてしまったのだ。だが落下試験をすれば毎回割れるとは限らず、割れないときもあった。構造を再確認したところ、CADデータでも試作品でも、基板とブラウン管の後端の周囲20 mm以内にぶつかる物はない。実際には20mm以上動いているのか、落下高さを間違えて試験していないか、CADデータに描き忘れた部品はないかなどを調べつつ落下試験を繰り返したが、なかなか原因は見つからなかった。割れるときと割れないときがあるのも、さらに原因究明を難しくした。

 

設計仲間に相談したところ、基板から出ている宙に浮いたリード線が、ブラウン管の後端が動くことによってピンと突っ張り、コネクターを介して基板にストレスを与えていることがわかった(図2)。その後、リード線がピンと突っ張らない所定の位置にリード線を固定して再試験を行ったところ、ブラウン管の後端は割れなくなったのだ。後で考えると原因は簡単なことだが、筆者1人では思いつかなかった。最終的に、ブラウン管を5本も割ることになってしまった。

 

ブラウン管の後端が割れる根本原因は、筆者がリード線を所定の位置に固定していなかったことだった。試作品を組み立てるときには、もちろん最終製品を想定して試作品内部の所定の位置にリード線を這わしてパースロックで固定する。筆者は機構設計者であり、その完成した試作品で機構に関するさまざまな試験を行うが、その中の落下試験は試作品へのダメージが大きいため、いくつかの試験の中で最後の方に行うことになっていた。

 

試験後は試作品の内部を確認するため、試作品を分解してまた組み立て直すことが多い。しかし、この落下試験の前の試験後に、筆者がリード線を所定の位置に固定せず、リード線が宙に浮いたままの状態にしてしまっていた。つまり、最終製品の状態にして試験を行わなかったのであった。試験前の準備の基本を怠っていたわけだ。ブラウン管を5本無駄にし、1時間で終えられる試験を2日間にわたって行い、時間の無駄にもなってしまった。

 

このときの教訓は、試験を行う前には試作品を最終製品の状態にしておくことである。当たり前ではあるが、面倒で忘れがちなことでもある。

 

よく忘れがちな次の例もある。生産でビスを留める工程では、電動ドライバーのトルクを所定の値に設定し、すべての製品を同じトルクで留める。よって、試作品で試験を行うときにも、生産を想定したトルクでビスを留めなければならない。ビスが緩みやすい振動試験後に試作品のビスが緩んでいた場合、その試験前に試作品のビスを手の力を使ってドライバーで留めていれば、ビスの締付けトルクは所定の値になっていない。そのためビスが本当に緩みやすいかは把握できず、その試験はやり直しになってしまう。このようなことから、試験は最終製品の状態にしてから行うことを忘れてはならない。

 

試験後に試作品が破損してしまった場合、試験前に試作品が本当に最終製品の状態になっていたか記憶があいまいで確信がないことが多い。このような事態に備え、試験前の試作品の状態の写真撮影をお勧めする。試験の準備段階で、試作品の内部の写真と組み上がった写真、梱包した状態で試験するなら梱包状態の写真を撮っておくのだ。試験を行っているときの風景写真や試験機にインプットした設定値の写真も撮っておくと良い。後から、実施した試験方法が適切かどうかを確認できるからだ。この写真は、試験後のレポート作成にも役立つ。

製品の製造性の検証

 

製品の製造性に関する検証とは、正しく組み立てやすいかの確認だ。詳細の内容を次に示す。これらは、連載第5回でお伝えした設計審査で行う3次元CADデータで確認できる内容もあるが、試作した部品と組み上がった試作品で確認しなければわからない内容も多い。

 ①1人の作業者が両手で作業できるか
 ②人の力で作業できるか
 ③手指が疲労・損傷せず安全に作業できるか
 ④部品が変形・破損しないか
 ⑤部品が間違った方向に取り付かないか
 ⑥違う部品が取り付かないか
 ⑦いつも所定の位置に部品が取り付くか
 

①、②で作業ができない場合は、治具の作製が必要となる。設計者はもちろんこれらを配慮して設計を行うが、3 次元CADデータでは判断しにくいので、試作した部品と組み上がった試作品で確認したい。筆者は、過去に2 つの部品の間にコイルばねを入れ込む設計をしたところ、両手で組み立てることができなかった経験がある(図3)。

 

③は、例えばリード線のコネクターなど、数回挿し込むことは問題なくても、1 日に数百回挿し込むと、爪が損傷する場合がある。このような部品の良否は、設計者では判断が難しいため、組立工場の製造技術の担当者に相談するのが良い。

 

⑤、⑥は、設計内容でも製造の組立方法でも対応できるが、設計内容で対応するのがより良い。理由は、組立工場のスキル、もしくは作業者のスキルによって品質が左右されるのを防ぐためである。日本では組立工場のスキルが高く、不良が発生することは少ないが、中国の組立工場のスキルはあまり高くないので、設計内容で取付ミスを未然防止する対応が良い。⑦は、設計内容で対応しておくべきである。これは3次元CADデータでも確認できるので、試作品ではその作業性の確認となる。

 

部品の製造性とサービス性の検証は、設計審査において3次元CADデータで確認できることがほとんどなため、連載第5回を参照してほしい。 製造技術の担当者と一緒に確認する

 

製品の製造性の検証は、組立工場の製造技術の担当者と一緒に行うことが望ましい。設計者は技術的な作業を何年も行っている人が多く組立作業は総じて得意なものであるが、製造ラインの作業者は技術者ではないため、ドライバーを初めて扱う作業者も実際には多い。設計者には「簡単な組立作業だ」と思えても、実際の作業者にとっては難しい作業もあり、それは組立てを専門に行う製造技術の担当者でなければ適切に判断できないことが多いのだ。また、最近は外国人も多いので、作業標準書に組立方法を明確に記載しても、理解してもらえない場合もある。よって、組立ミスが生じないように、設計内容で対応できるところはなるべく対応しておいた方が品質は安定する。

 

また、設計者は検討時に試作品の組立てを何回か行ってはいるが、それは製品の生産時に比べると丁寧でゆっくりした作業である。大量生産での1日に数百回の同じ作業となると、設計者では気付かない問題点が多くあるのだ。

 

製造性の検証とは若干違う話になるが、試作品の組立てのときに組立順を決めることを忘れてはならない。すべての組立作業はその順番を決めなければならない。生産時に必要な作業標準書の作成のためにも必要だ。例えば、上下2本のビスで留める部品があり、設計者は上のビスと下のビス、どちらを先に留めても良いと考えた。しかし、ビス留め順の違いによって、部品の取付状態には必ず若干の差異はあるものだ。その差異は微小であるため、設計者には製品には何の影響もないと思えても、その差異が製品に及ぼす影響の検証はしていないため、どんな問題が発生するかはわからないことになる。よって、ビスを留める順番は決めておく必要があるのだ。

 

筆者は以前、板金部品を10本のビスで留める工程において、その順番を決めてから製造ラインに指示しなかったため、不良を発生させてしまった経験がある。そして、不良が発生するビス留め順を探し出す検証に半日も要してしまったのだ。このような不良を最小限にするため、すべての部品の組立順は必ず決めておく(図4)。

 

日本の組立工場の製造技術の担当者は、こうしたことを理解しているため、設計者が組立順の指示を忘れていても、担当者の方から設計者にヒアリングし、決めた順番を作業標準書に記載してくれる。しかし中国では、設計者が指示しなければ作業者は自分の組み立てやすい順番で作業を行う。そして、作業者が変われば、また作業順も変わる。これが、中国で不良が発生しやすい原因の一つである。作業順は製品の製造性の検証と一緒に決めておくと良い。

 

製造性の検証は組立工場の製造技術の担当者の知見に頼るところがあり、また最終製品の品質を保証してもらうためにも、実際に生産を行う担当者が納得できる作業方法と作業順にすべきである。ぜひとも、製造技術の担当者と一緒に検証を行ってほしい。

著者略歴


ロジ 小田 淳(おだ あつし)
製品化のイロハコンサルタント。上智大学理工学部機械工学科卒。ソニーに29年在籍し、プロジェクタなど15モデルを製品化。ベンチャーを支援する中で、材料費が高すぎ売っても損する、輸送中に壊れる、法規制がわからないなど、製品化のハードルを越えられない企業に出会う。企画から設計〜試作〜検証〜量産の全プロセスにおける、安全性(法規制)・信頼性・製造性・コスト管理などの手法をコンサルと研修で伝える。

雑誌紹介


雑誌名:機械設計2021年11月号
判型:B5判
税込み価格:1,540円

内容紹介

機械設計 2021年11月号  Vol.65 No.12 【特集】ひずみ・応力測定の基礎と評価法

機械や構造物を設計する際には、安全性や信頼性を十分に確保するための検討が重要です。ひずみ・応力の測定は、構造物・材料の強度、剛性などの力学的な特性を求めるために行われます。また有限要素解析などのシミュレーション結果の妥当性を確認するためのデータ取得にも利用されています。  本特集では、ひずみ・応力測定方法の中でも、最も基本的で精度、信頼性が高く、多くの試験に適用できるひずみゲージ法のほか、画像処理技術を適用して変位、ひずみ分布の測定が可能なデジタル画像相関法とサンプリングモアレ法を取り上げました。それぞれ測定法の原理から、測定のポイントや注意点、活用事例などを解説します。

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