試作品と最終製品はどう違う?材料を選ぶ前に知っておきたいこと
私たちの身の回りにある製品の材料には、主に樹脂と板金、金属がある。ほかにも木や布、ガラス/陶器などもあるが、本連載ではそれらは省く。これらの材料を使って部品を作製する場合、設計過程における試作品の作製時と最終製品の生産時では、その材質と加工方法に違いがある。そして、これらの部品を作製する部品メーカーも異なってくる。また、加工方法が異なるために、部品形状も微妙に変わる場合がある。今回はこれらの違いと特徴についてお伝えする。
表1の手づくり試作とは、大量生産するときに用いる金型は使わず、部品を一個一個手加工と機械加工で作製することを指している。生産前の検討用の試作部品や、展示会に出品する製品の部品などは、手づくり試作の欄に記載のある加工方法で作製されている。金属とはドアノブなどのように、塊になっている部品を指す。タレパンとは正式にはタレットパンチプレスと言い、大きな板金を一定の長さで連続して切断したり、穴をあけたりする装置である。レーザーで連続して切断する装置もある。これらの加工の後にベンディングマシンで板金を曲げて形状を作製する。
材料の選定
私たちの身の回りには、樹脂(一般には合成樹脂=プラスチック)の製品が最も多く、次に板金の製品が多いことがわかる。樹脂は軽量で曲線形状を自由につくることができ、また安価であるため多用される。しかしながら、樹脂部品には主に次の3つの弱点がある。
・耐熱性が低い・強度が低い
・大量生産には高額な金型が必要
台所のトースターやコンロ周りには板金部品が多い。その理由は高温になり耐熱性が必要だからだ。会社にある本棚は板金である。それは強度が必要だからである。実験室や測定室などにある販売台数が少なそうな高価な装置は、耐熱性や強度が必要でなくても板金でできている。その理由は、樹脂部品の作製には高額の金型が必要となり、部品の生産数が少ないと金型費の元が取れないからである。金型費は部品の総生産個数で割って部品コストに含まれるのだ。このような生産数の少ない部品は、金型を用いないで作製するのが一般的だ。以上のことからわかるとおり、私たちの家庭にあるような販売台数が多い製品は樹脂でできており、上記の3つの対応をしたい場合に板金を用いている。
しかし、板金部品は重たく、また曲線形状を自由に作製しにくいというデメリットがある。これらに対処するために、板金を薄肉化する代わりにリブを設けて強度を確保したり、金型で高度な絞り加工を行い、複雑な曲線形状を作製したりする。自動車の外装部品はその典型である。とは言え、樹脂と同等レベルにはできないので、表2においての評価は△としてある。
さらに、板金は樹脂と比較して材料費が高い。よって生産数が多く、金型費がかかっても十分に採算が取れる部品の場合は、やはり安価な樹脂で作製したい。このようなときは、フライパンと一緒に使うヘラのような高耐熱樹脂を使用したり、強度の必要なギヤに機械的強度の高い樹脂を使用したりする。これらの樹脂はエンジニアリングプラスチック(エンプラ)と呼ばれ、一般の樹脂よりは高価である。
最近は、CFRPという炭素繊維強化プラスチックが注目を浴びている。板金と同等かそれ以上の強度を持ち、樹脂と同じくらい軽量なのだ。
板金部品は、製品に高級感を出すために高級オーディオ製品の外装部品に使用される場合もある。鉄の板金部品に高級感のある塗装を施したり、アルミの板金部品をヘアライン加工してアルマイトを施したりする。
金属の部品は、かなり高い強度を必要とする構造部品に用いる。その代表は自動車のエンジンである。家庭では水道などの水回りで使われる部品がある。また、高級感という観点から、iPhoneなどのアップル社の製品の外装にも用いられている。
樹脂や板金、金属の材料には多くの種類が存在し、それぞれの種類に応じて、材料メーカーはさまざまなタイプの製品をつくっている。これらは非常に多岐に及ぶため、Webで検索してほしい。
樹脂の加工方法
樹脂の量産部品は、金型を用いた射出成形で作製されるのがほとんどである。射出成形で作製される部品には、多くの形状的な制約や特徴がある(図1)。それらは、部品としてデメリットになる場合が多いため、それらを回避するように設計したり、金型設計において配慮が必要であったりする。次に、主なものをデメリットとともにあげる。
・抜き勾配→面が垂直にできない
・アンダーカット→必要な形状が金型に干渉し作製できない
・ひけ→面に部分的な凹が発生する
・ウェルドライン→面に部分的な細い線が発生する
・ゲート→突起が必要な箇所がある
・エジェクタピン→丸いハンコのような跡が複数できる
・バリ→端面の稜線にわずかな樹脂のはみ出しができる
これらが射出成形した部品の特徴であるが、手づくり試作の部品ではこれらは発生しない。表1に示したとおり、手づくり試作の加工方法は4通りある。1つ目は貼り合わせだ。樹脂の部品をよく見ると、全体的に均一な厚みになっていることがわかる。0.8~2mm程度が一般的だ。射出成形では、溶かした樹脂を金型内に射出した後に冷却して固める。このときに部分的に厚みが異なると、その厚い部分だけ冷却時間が余分にかかり、部品コストがアップしてしまう。また、均一な厚みでないと樹脂の厚み方向の収縮量に違いが生じ、部品の変形の原因になる。つまり、樹脂部品は均一な厚みになっているため、一定の厚みの樹脂の板材を適当な形状にカットして接着剤で貼り合わせれば、射出成形の部品と同等形状の部品を作製できるのである。
注意しなければならないことは、図1にある抜き勾配を手づくり試作の部品では垂直な面にする場合である。抜き勾配のある形状の加工は難しく、時間がかかるためコストアップになってしまう。よって、抜き勾配のない垂直な面で部品を作製することが多く、その場合は、表3に示すように射出成形の部品と形状が異なることを理解しておく必要がある。
貼り合わせは、樹脂の板材を接着するため、その接着部分は強度が弱い。強度試験を行う場合は、強度の必要な部分の接着は避けるか、切削加工で一体化させて作製した方が良い。また、貼り合わせは一個一個の手加工のため高価となる。
注型は、貼り合わせで作製した部品でシリコンゴムの型をつくり、その中に専用の樹脂を注入して固めて部品を作製する方法だ。1つの型で20個程度を作製できるが、1個が型内で硬化するのに2時間以上はかかり、また型から取り外した後に一つひとつ後加工が必要になるため、大量生産には向かない。射出成形のように数十秒で1個部品ができるものではない。しかし、部品を一体化して作製できるため、強度試験を行う部品には有用である。
切削加工は樹脂の塊をマシニングセンタなどで切削して形状を作製する。一体化した部品を作製でき、勾配をつけても部品のコストアップがない点がメリットである。
最近は、3Dプリンタで試作部品を作製することが多い。価格的、サイズ的に手頃な製品が多く出回っているので、自社で簡単に購入することができる。自社にあれば、3 次元CADでの設計が完了した数時間後には試作部品を手に取ることができるので、非常に有用である。部品の強度は射出成形より劣るが、材質や3Dプリンタの種類を選定することによって、強度試験のできる部品の作製が可能だ。
総合的に判断すると、2~3個の検討用の部品を至急で作製したい場合は3Dプリンタが有用で、数十個単位など試作品をある程度多くつくりたい場合は注型が有用である。3Dプリンタでは製品によって、約30cm以上の大きい部品はつくれない場合があるので注意したい。射出成形以外は材質の選択が限定され、また部品コストも高価であるため、大量生産には適していない。
板金の加工方法
板金加工には、金型を用いたプレス成形とタレパン/レーザー+ベンディングがある。後者は一つひとつ部品を機械加工するためコストは高いが、プレス成形とほぼ同じ形状の部品を作製でき、材質も自由に選択できる(表4)。形状に関しては、プレス成形では、新規に金型をつくるためどんな異形の穴や外径形状でも作製できるが、タレパンでは、部分的な異形の形状には金型を必要とする。ただし、レーザーでは異形の形状を作製できる。タレパン/レーザー+ベンディングでは、絞り加工も部分的に金型が必要になる。
また、プレス成形では図2のような一見どうやって作製したかわからない形状も、部品メーカーの特殊な技術によって作製可能である。このような加工技術が、日本の町工場が世界的に優位に立てる分野である。
図2の写真左はビスが貫通する穴である。体裁面は凹になっているが、写真では見えない反対面は凸にはなっていない。写真右は板金の端面から直角方向に曲げRなしで突き出たベロである。曲げ加工で作製したものではない。いずれも絞り加工を応用したものであり、プレス成形ならではの特殊形状である。
プレス成形ではデメリットもある。1つの典型的な例をあげると、板金の曲げ近くの穴の変形である。曲げ部分にスリットを入れれば変形を回避できるが、プレス成形ならではの形状と言える。実際の形状は「板金 曲げ 穴変形」でWeb検索してほしい。板金のプレス成形は基本的に、外径抜き→穴→曲げの順番で行っていく。この工程を理解しないで部品を設計してしまうと、作製不可能な形状になってしまう場合がある。しかし、タレパン/レーザー+ベンディング加工では、あの手この手の工夫によって、どんな形状でもできてしまう。よって、手づくり試作をタレパン/レーザー+ベンディングで行い、生産をプレス成形で行う場合は、手づくり試作の段階からプレス成形を考慮した設計が必要となる。
プレス成形かタレパン/レーザー+ベンディングかの選択は、総生産個数で判断する。一般的には、以下の算出によって導き出されたコストが安い方を選択すると良い。
総生産個数×部品コスト+金型費(タレパン/レーザー+ベンディングの場合は0円)
金属の加工方法
金型を用いた金属の成形方法は、鋳造の一つであるダイカスト以外にも多くある。よく知られた方法としては、金属を叩いて圧力を加えて塑性変形させる鍛造、鋳造の一種であるロストワックス、金属の粉末を熱で固める焼結などがある。筆者は金型に溶融したアルミなどを圧入するダイカスト鋳造しか経験がないので、それに関してお伝えする。設計的なノウハウは樹脂の場合と大きくは変わらない。しかし、金型から離型した後処理として、バリ取り→切削加工(必要に応じて)→パテ処理(必要に応じて)→表面処理の工程がある。これらの後工程は一個一個の手加工が多いため、ダイカストの部品は高価になるのだ。金型をつくらない場合は、切削加工で部品を作製することになる。
最近は、3Dプリンタで金属部品の作製が可能となった。飛行機や自動車部品ではすでに使われている。また、3Dプリンタでは抜き勾配やアンダーカットを気にする必要がないので、自由度の高い部品を作製できる。総生産個数の多い部品はダイカスト鋳造となり、手づくり試作や少量生産であれば切削加工か3Dプリンタとなる。
金属の3Dプリンタで金型を作製すると、大きなメリットを発揮する。3Dプリンタは自由度が高い形状の作製が可能なため、金型内の水管の配置を3次元的に設計でき、また金型の深堀加工の時間を短縮できる。金型作製期間を大幅に短縮でき、金型費も安いと言われている。ぜひとも活用したい。
今回は材料の選択の仕方と、部品を作製する目的とその個数によって部品の作製方法が異なり、またそれによって形状も異なることをお伝えした。また発注する部品メーカーもそれぞれ異なることも頭に入れておくべきである。
著者略歴
ロジ 小田 淳(おだ あつし)
製品化のイロハコンサルタント。上智大学理工学部機械工学科卒。ソニーに29年在籍し、プロジェクタなど15モデルを製品化。ベンチャーを支援する中で、材料費が高すぎ売っても損する、輸送中に壊れる、法規制がわからないなど、製品化のハードルを越えられない企業に出会う。企画から設計〜試作〜検証〜量産の全プロセスにおける、安全性(法規制)・信頼性・製造性・コスト管理などの手法をコンサルと研修で伝える。
雑誌紹介
雑誌名:機械設計2021年10月号
判型:B5判
税込み価格:1,540円
内容紹介
機械設計 2021年10月号 Vol.65 No.11 【特集】ポンプの開発トレンドと設計技術多様な分野で活用されている重要な機械要素で、上下水道やプラントなど液体を用いたシステムの心臓に例えられるポンプ。工作機械や自動車などの流体制御にも必須で、ポンプ技術の向上は製品の高付加価値化に不可欠です。近年では、従来ポンプを手がけていなかった部品メーカーなどが、安定成長の見込みから自社技術とかけ合わせたポンプ開発事業に乗り出すなどの動きも活発化しています。本特集ではポンプに関する業界動向から開発トレンド、設計技術などを紹介します。