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設計者の腕はどこに表れるか。発想だけではない、製品を世に出すためのあれこれ

雑誌『機械設計』連載 アイデア品を販売したい! 製品化プロセスのイロハ 第4回 製品を設計する
 

前回の連載では、企画と設計構想についてお伝えした。企画では「この製品でどのような世界をつくりたいか」の志がまず大切であった。そして設計構想においては仕様や日程、コストの計画を詳細に立てることが重要とお伝えした。志と詳細な計画があるからこそ、市場の変化に柔軟に対応できるのである。

 

次は、いよいよ設計が始まる。製品化プロセスの業務では、いわゆる技術的な設計業務以外にも多くの事務的な仕事がある。コスト管理や法規制の調査、環境規制の対応などである。それらの仕事に追われる中、この設計業務は設計者にとって最もやりがいのある楽しい仕事だ。筆者は機構設計者であるため、主に機構設計の業務についてお伝えする。

設計で押さえるべきポイント

 

第1回目の連載でお伝えしたが、設計は設計者の発想だけで3次元データを描くものではなく、主に次の7つの規制の中で設計を進める必要がある。

 ① 安全性(一部は法規制)
 ② 信頼性
 ③ 製品の製造性(組立性)
 ④ コスト管理
 ⑤ 部品の製造性(例えば金型に対応すること)
 ⑥ サービス性
 ⑦ 社内規格
 

①安全性への配慮を怠ると、当局の認証を受けられず製品の量産もしくは販売ができない。②信頼性への配慮を怠ると、自社のブランドに大きな傷がつく。これらの両者は、ユーザーに損害や危害を与えることもあり、それが大きければ、部品交換もしくは製品を交換する市場回収になる。販売された個数にもよるが、多額の出費となる。③製造性が悪いと不良品を誘発し、④コスト管理を怠ると、いくら売っても損することになりかねない。⑤部品の製造性は、これを考慮しないとそもそも部品が量産できないこともある。⑥サービス性が悪いと、市場クレームになりやすい。

 

設計者は、これらの7つの規制を常に念頭に置いて設計を進めなければならず、これらの知識が設計者のスキルであり、これらをもれなく盛り込んだ設計を、いわゆる良い設計と言う。

設計業務のアウトプット

 

設計業務のアウトプットは以下の3つである。

 ・3次元データ
 ・2次元データ(=2次元図面)
 ・部品表(BOM)
 

単純な形状の部品であったり、3次元CADシステムがなかったりする場合は2次元データのみでも設計はできる。底と蓋しかないお弁当箱のような簡単な製品であれば、あえて3次元CADシステムを購入する必要はない。

 

最近、3次元データさえあれば2次元データは必要ない、とウェブ上のコラムで見かけるが、現在のところそれはあり得ない。基本的に3次元データは部品の形状のみのデータであり、部品の仕様をすべて表現してはいない。材質や塗装/印刷/表面処理、接合部があればその接合方法やその強度、寸法交差/変形(反りなど)の規格、環境規制なども部品仕様である。小さい部品を複数まとめてパッケージして納品してほしいものは、そのパッケージ形態を記載することもある。最も重要なものは、部品名称と部品番号である。部品メーカーにとっては、複数社から数多くの部品の作製 依頼が来るので、それらの明確な区別が必要だ。また、1つの部品であっても、変更があった場合はそれの新旧の区別が必要となる。

 

これら2次元データに記載している内容をすべて3次元データ内に書き込めれば良いが、まだそれに対応した3次元CADシステムはほとんどなく、あったとしても部品メーカーがそれに対応できるとは限らない。部品メーカーでは、コスト見積もりや金型作製、成形、測定などの多くの担当者が部品の仕様を見ながら仕事をするため、3次元データを見ることだけできるビューワを持たなければならない。DXが叫ばれる現在、3次元データのみですべての部品仕様を見られるようになるのは時間の問題かもしれないが、当面、2次元データがなくなることはありえないと筆者は考える(図1)。

図1 製造現場の作業者は2次元図面を見て作業することが多い
 

3次元/2次元データとともに、全部品を一覧できる表1のような部品表が必要だ。部品表で示す内容は、主に次の3つである。

 ・部品の員数
 ・部品の構成
 ・製品本体以外の部品
 

員数とは、設計する1つの製品で使用する部品の数である。部品の構成とは、製品内の部品のブロック分けである。自動車を例にとると、エンジンブロックや運転シートブロックのようなものだ。組立工場では、全部品を単品で購入して組み立てるのではなく、部品メーカーに一部の組立てを行ってもらいブロック単位で購入し、そのブロック単位で組立てを行うのが一般的だ。あるいは、組立工場においてメインの製造ラインとは別のラインでブロック単位の組立てを行い、その後メインの製造ラインに投入する方法もある。このようなことから、部品構成や組立て方が大まかに理解できるように、ブロック分けをこの部品表で明確にする。表1ではカバー組立てがブロックで、その構成部品としてカバーとストッパーがある。3次元/2次元データと部品表を合わせて、1つの製品を表すことになる。

 

もう一つ、部品表で忘れてならないのは、製品には製品本体以外の部品もあるということだ。それは取扱説明書や梱包材、付属品などである。部品表はあくまでも、ユーザーに届ける製品全体を表すものなのだ。

 

設計者は、この部品表をコストの管理や部品の設計進捗管理(3次元データ完了、金型完了など)をはじめとする多様な目的に活用する。3次元CADシステムに連携した部品表もあるが、設計者によって部品表の用途はさまざまであるため、個々の設計者がオリジナルで作成していることが多い。

表1 コスト管理や設計進捗管理にも使用する部品表

3次元/2次元データの管理方法

 

3次元/2次元データのパソコン(サーバー)内での管理方法に関してお伝えする。設計を初めて行うベンチャー企業において、複数の設計者が設計を開始するときには、ぜひとも決めておきたい管理ルールである。これをつくらないで、複数の設計者が個々のルールでデータを作成してしまうと、後々に混乱が起こる。主に、次の3つのルールについて考えておく必要がある。

1)部品名称のつけ方
2)部品番号のつけ方(カテゴリー/新旧区別)
3)3次元/2次元データ名称のつけ方
 

部品名称は、社内や協力会社とのコミュニケーションにおいて部品の呼称として用いるので、わかりやすいものが良い。お弁当箱でいえば、「お弁当箱蓋」、「お弁当箱底」となる。英語を併記するかも決めておく必要がある。3次元CADシステムによって3次元データの名称を英語しかつけられない場合や、海外に製造を委託する予定があれば、英語も併記したい。

 

部品番号は、部品のカテゴリーの区別や、変更による部品の新旧を区別できるようにしておきたい。部品のカテゴリーには、電気部品/機構部品や単部品/組立部品などがある。また、部品は設計が進むに従って何度も変更され、試作部品の作製時には、協力会社に何度か3次元/2次元データが渡される。そのとき、3次元/2次元データを受け取った協力会社が、過去に受け取ったデータとの区別がつかない場合がある。それを防止するために、部品を変更しデータを更新したときには、部品番号も更新していく必要があるのだ。カテゴリーと新旧の区別は、数字以外にA,B,C・・・を用いても良い(図2)。

図2 部品番号にカテゴリーと新旧の区別を持たせる
 

3次元/2次元データの名称は、部品番号と部品名称に整合の取れたパソコン(サーバー)内の名称である。部品が多くなると、設計者自身でも3次元/2次元データの名称を見ただけでは何の部品なのかわからない場合もある。名称を見れば、何の部品であるかをすぐわかるようにしたい。

 

複数の設計者がいる場合は、3次元/2次元データのどれが最新か、わかるようしておかなければならない。共同設計者が自分のつくった古いデータに合わせて設計をしていたら、設計ミスにつながる。常に最新データをサーバー上の指定されたフォルダに入れておくルールをつくるか、3次元CADシステムに付属しているCADデータ管理ソフトを購入して管理するのが良い。筆者の経験では、共同設計者が5~6人以下であれば、サーバー上の指定されたフォルダに最新のデータを常に入れておくルールを徹底すれば、CADデータ管理ソフトを購入しなくても問題は発生しないと考える。

標準部品と標準設計

 

標準部品とは、1つの会社において汎用で使用する部品のことで、その3次元/2次元データも共通で使用する。汎用部品の3次元/2次元データを毎回新規に作成する必要がないうえ、標準部品をより多くの製品で使用すれば、部品のコストダウンにもつながる。標準部品のルールをつくり、積 極的に活用すべきである。

 

ここで大切なことは、標準部品の検索がしやすいことだ。設計者は自分が新規に設計する製品の汎用部品は、もちろん標準部品を流用したい。新規設計する手間が省けるからである。しかし、標準部品の検索がしにくかったり、3次元CADシステム上に 3次元データを配置することが困難であったりすれば、設計者は新規に部品を作成した方が早いと考えるようになる。そうなると、標準部品システムが機能しなくなり、システム内にほとんど同じ形状の標準部品が氾濫してしまう。標準 部品システムを継続して活用させるには、検索し やすく、3次元データを容易に3次元CADシステ ム上に配置できることが必要不可欠だ。

 

標準設計とは機構設計の場合、部品の形状や寸法が標準化されていることである。標準化されていれば、設計者は強度や構造などで悩むことなく設計を速く進めることができ、また設計の完成度も高くなる。しかし、製品の仕様や部品の材質、また嵌合する部品などによって、その最適形状や 寸法は変わることもある。よって、あくまで参考 として標準設計を捉えるべきである。

 

これら標準部品と標準設計のシステムを会社として継続的に維持活用していくには、これらを全社で管理するシステムとすべきである。例えば、社内に複数の設計部門があり、その中の一部門で管理をしてしまうと、組織変更があった場合に、そのシステムの管理をどこの部門が引き継ぐかという問題に発展し、しまいには有名無実のシステムとなってしまう。管理方法には注意が必要だ。

CADを用いての設計手順

 

設計の最初から3次元CADや 2次元CADデータを描き設計を進めるのは、決して良いとは言えない。CADの操作がかなり速ければそれでも問題はないかもしれないが、まずはイラストを描くことを勧めたい。イラストを描きながら、複数の部品の構成とそれらの嵌合方法、単部品の形状と個数、その材質と厚み、大まかの寸法を決める。金型で樹脂部品を作製するのであれば、パーティングラインなどもこのイラストで決める。筆者は設計構想の段階でイラストと部品表を作成して、コストの見積もりまで行う。イラストは決してすべての形状を描くのではなく、同じ形状や、単純な形状は部分的に省略する(図3)。

図3 設計はイラストを描くことから始める
 

最初にイラストを描くメリットは次のとおりである。まず、設計が速い。設計修正は消しゴムで消すだけであり、イラストなら3次元データで10分要する修正を1分程度でも終えられる。また、3次元データはCADのディスプレイ内の形状を拡大して設計しがちであるが、イラストは製品や部品の全体を俯瞰しながら描くことになる。製品と部品全体を配慮した最適形状をイメージできるのだ。また、3次元データのみの設計では3次元データでつくりやすい形状を描きがちになる。3次元データとしての最適形状ではなく、製品としての最適形状での設計が大切になる。

 

イラストが描き終わったら、それを参考に3次元データを作成し、詳細寸法や形状を確定する。この段階で、自分の描いたイラストの形状が成立しないと判明することもまれにあるが、トータル的に設計が速いのは間違いない。

 

3次元データができたら、まずは部品同士の干渉チェックである。ほとんどの場合、部品同士はどこかでぶつかり合っている。それを修正した後に、必要に応じてCADシミュレーションを行う。強度や放熱、熱伝導などに関して行う。CADシミュレーションを行うより、現物の部品を作製して検証した方が確実で速い場合もある。CADシミュレーションを行うか否かは、検証精度と時間、コストを合わせて決めることが必要だ。

 

例えば、ヒンジのある製品を設計していて、その製品の使用環境温度 0~40℃の範囲におけるヒンジの耐久性を検証したいとする。現物の部品を作製して試験を行う場合は、一般的に0℃と40℃での耐久試験を行うことになる。それは、品質問題は温度の上限と下限で発生しやすいからだ。また、試作部品は価格が高いため数多く発注できないというコスト的な制約、耐久試験を行う時間的な制約から、これら2通りの試験しかできない現状もある。この上限と下限で試験を行い問題が発生しなければ、その間の温度では問題は発生しないと推定するのだ。しかし、CADシミュレーションではコストと時間の制約がほとんどなくなるので、例えば温度を、0、10、20、30、40℃でCADシミュレーションを行うことができる。もし、ヒンジの耐久性の問題が 20℃で発生する場合は、CADシミュレーションの方が確実に検証できることになる。

 

3次元データが完成したら、2次元データを作成する。2次元データ作成ツールは3次元CADシステムに付属している場合が多く、簡単に作成できる。

 

設計データの管理方法、標準部品と標準設計、イラストやCADシミュレーションを用いた設計手法に関してお伝えした。これらはどれもが企業や設計者が独自に持っている設計手法であり、その設計手法に則って設計された製品のデータと併せて、企業や設計者の設計レベルとなっている。

著者略歴


ロジ 小田 淳(おだ あつし)
製品化のイロハコンサルタント。上智大学理工学部機械工学科卒。ソニーに29年在籍し、プロジェクタなど15モデルを製品化。ベンチャーを支援する中で、材料費が高すぎ売っても損する、輸送中に壊れる、法規制がわからないなど、製品化のハードルを越えられない企業に出会う。企画から設計〜試作〜検証〜量産の全プロセスにおける、安全性(法規制)・信頼性・製造性・コスト管理などの手法をコンサルと研修で伝える。

雑誌紹介


雑誌名:機械設計2021年7月号
判型:B5判
税込み価格:1,540円

内容紹介

機械設計 2021年7月号  Vol.65 No.8 【特集】3次元大規模アセンブリ設計とデータ管理手法

製造設備や生産ラインなど、数万点もの部品で構成される大規模装置では、依然2次元設計が主流となっています。一方で、近年ではPCの性能が高まり、CADベンダー各社は大規模アセンブリの操作パフォーマンスの向上や専用機能の拡張を進めています。3次元設計によって、迅速な修正、部品同士の干渉防止、複数人同時設計など大きなメリットを享受できます。そこで本特集では、主要な3次元CADやCAE、ビューワ、VRソフト、3Dスキャナなどにおける、大規模アセンブリ設計向けの機能の動向や活用ポイント、PDMによるデータ管理手法などを紹介します。

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