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全国の作り手と会える、話せる。ててて商談会が紡ぐ、ものづくりの世界を広げる場づくり

全国の作り手と会える、話せる。ててて商談会が紡ぐ、ものづくりの世界を広げる場づくり

ててて商談会 2021.10 会場の様子(東京・表参道)

働き方や暮らし方、仕事の在り方など従来の生活様式が激しく変化する昨今。企業活動ではBtoBで培われた技術を生かして自社製品を開発した事例や、コロナ禍で従来の業態の在り方を問い直す動きも多く見られる。誰もが頭を働かせ、手を動かし、立ち止まらずに進もうとしている。

このような状況の中「作り続けたい。伝え続けたい。使い続けたい。」というステートメントを掲げた展示会『ててて商談会 2021.10』が東京・表参道で開催された。全国から約80社が集まり製品や技術、事業について想いを伝える姿でにぎわった。
 対面でのコミュニケーションが制限された時間を経て、リアルな場で得られる情報の価値を再認識することも多い現在。作る・伝える・使う、それぞれの想いが交差する場とそのコミュニティーを紡ぐ人々の声から、ものづくりの世界を広げ、継続していく選択肢のデザインが見えてきた。

業界・製品ジャンルを超えて集う作り手たち

ててて商談会は中量生産品、手工業製品を中心とする合同展示会だ。デザイナー、プランナー、ディストリビューター、デザインマネージャーによる合同会社ててて協働組合が運営する。地場産業や伝統工芸に根差したアイテムを軸に、大量生産品ともハンドメイド作品のような一点物とも異なる、中規模での販売・製造可能な製品たちが全国から集まる。

会場には町工場から生まれた鍋、ダンボール古紙を原料とする素材を用いた紙製品、甘酒や海苔などの加工食品、地場の素材を使ったくつ下など、個性豊かな製品とその作り手たちが並ぶ。全体のおよそ20%は初参加の事業者だ。「出展ジャンルはさまざまですが、コロナ禍以降、おうち時間を意識した日用品や衛生用品の出品が増えました」(運営共同代表・吉川友紀子さん)。ブースに立つ顔ぶれも職人やデザイナー、作家など多様な姿が印象深い。

実際のプロダクトを間近で見ながら会話できる

来場者は半数以上が百貨店やセレクトショップのバイヤーだ。協業や商品開発のパートナーを探すデザイナー、スタイリスト、行政関係者などの姿も見られる。接客や店舗を通し「伝え手」として働く人々と製品の作り手たちが、実際の製品を手に取りながら間近で対話する様子は、ててて協働組合が長年大切に育ててきたコンセプト「紡ぎ、つながる場づくり」に通じる光景だ。参加企業の多くが「出展者同士の交流も多く、情報交換で終わらないコミュニケーションの場であることが魅力」と話しており、商談だけでなくコミュニティーとしての側面も大切に運営されていることが伝わる。

会える・話せる『場づくり』への想いと覚悟

従来もリアルならではの場づくりを強みにしてきた同展示会では、オンラインとリアルそれぞれの長所を整理し、最大限の工夫を考えた上で今回のリアル開催に至った。「来場者と参加者がしっかりと対話するには、匂いや味、重量、手触りと言った身体的な体験からしか得られない情報も重要と考えます」(吉川さん)。
 商談会の中心となる作り手も、皆がオンラインの世界に明るいとは限らない。「開催形式に対するお問い合わせは出展者・参加者双方から多くいただいており、オンラインのニーズは強く実感しています。一方で『会いたい』、『話したい』と、ものづくりの現場から作り手が集まる場の在り方を考えた時、運営として力を入れるべきはコンテンツよりも、そこに集う人たちのための『場づくり』だと結論を出しました」(広報・田原奈央子さん)。

SDGsや企業パーパスに対する意識が強まる近年では、日々の生活で生産から消費までのプロセスを意識する消費者が増えている。このような変化の中では、製品の特長やコンセプト、生産工程などにアクセスできる仕組みや、生産者とともに「伝える」、「届ける」仕事を協働できる仲間の存在も重要になる。作り手、伝え手、使い手、それぞれの想いを紡ぐ場の醸成は、ものづくりの世界が続いていくための選択肢を広げるカギになりそうだ。

作り手・伝え手・使い手を紡ぐ場づくり/ててて協働組合インタビュー

商談会の開催背景や今後の展望について、運営の吉川友紀子さんと田原奈央子さんに聞いた。

−−ててて商談会はどのようにして始まったのでしょうか。
 吉川:運営を担うててて協働組合のメンバーが、それぞれの仕事で携わっている手工業品や中量生産品を扱う展示会を作ろうと有志で働きかけたことがきっかけです。地場産業や手仕事を中心とした製品とその作り手が、業態や製品カテゴリーの枠を超えて集まる。大規模な展示会にはない距離感で対話できる。そんな場を志し、試行錯誤を重ねながら現在の形になりました。
 2012年に初めて開催した見本市は、気持ちを同じくしてくれる仲間20社を募るところからスタートしました。回を重ねるごとに活動の輪を広げ、最大で100社が出展する規模で実施したこともあります。

ててて協働組合 共同代表・吉川友紀子さん(前列中央)、広報・田原奈央子さん(後列右から2番目)

−−今回の『ててて商談会2021.10』はコロナ禍以降2回目の開催です。
 田原:検温や消毒、混雑度を見ながらの入場制限など感染症対策を徹底した上で、約80社が集まる場になりました。地域によって人が集う場所に対する警戒や危機感はまだまだ大きく、緊張が続く状況ではあります。
 ただ、コロナ禍以降も出展応募は減っておらず『ここで止まっているわけにいかない、止まっていたら息絶えてしまう』という作り手のエネルギーも強く感じます。
 吉川:来場者数もコロナ禍以前に比べると減少傾向です。その一方で滞在時間や人数を絞ってブースをまわる方が増え「商談」としての純度は上がっている印象があります。

−−商談の場だけでなく「コミュニティー」の醸成も重要視されています。
 田原:来場者との出会いはもちろん、作り手の交流も大切にしている要素のひとつです。今回は開場前に内覧会を実施し、参加者同士がお互いを知るための時間を作りました。
 吉川:各ブースは原則として壁や仕切りを立てないルールにしており、近くに配置された方々が自然に対話できる距離感を設計しました。また、運営と参加者双方が「商談会を作る仲間」として、意見や気づきを次のイベントにつなげるようにしています。

ててて商談会2021.10集合写真(撮影時以外はマスクを着用し感染症対策を実施した上で開催)

−−さまざまな「作り手」が参加しています。現場の課題や変化をどう見ますか。
 吉川:コロナ禍の影響や後継者不足、事業承継など、ものづくりの世界には循環や継続に関する課題が多くあります。一方で、かたくなに何かを作ることにこだわるのではなく、仕事の在り方を柔軟に捉えている作り手もいます。出展者には、事業をアップデートするための挑戦や仲間探しの機会としてこの商談会に参加される方が多い印象です。

−−「ててて協働組合」としての今後の展望は。
 吉川:商談会で実践している「作り手と伝え手」の出会いに加え「伝え手と使い手」、「使い手と作り手」のつながりについても考えています。激しく変化する環境の中、危機感や課題を持っているのは作り手だけではありません。どの立場も一人でできることは限られるけれど、仲間と出会うことでポジティブな変革を起こせる場合もあります。作る・伝える・使う、それぞれの当事者が集まり、暮らしや生活を豊かにしていく生態系を目指していきたいです。


記事内写真提供:ててて協働組合 撮影:宮下直樹

ニュースイッチオリジナル
濱中望実
濱中望実 Hamanaka Nozomi デジタルメディア局コンテンツサービス部
続けるかやめるか。リアルかオンラインか。一人かみんなか……。閉ざされた環境や変化の激しい状況では二者択一に思える選択肢も、描きたい未来を問いながら進む中で新たな道が見えることもあります。その過程ではビジネスにおける連携はもちろん、職域や業界を超えて対話できる、志を同じくする仲間の存在も重要と感じる取材でした。リアルイベントが少しずつ再開したり、オンラインとのハイブリッド形式で開催する展示会が増えたりと、ビジネスにおける場づくりも今後の方向性を模索しながら前に進もうとしている状況にあります。出展者・参加者はもちろん、主催者も企画やイベントを通して提供したい価値やコミュニケーションの在り方を考える姿勢が大切です。

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