コロナ禍に直面する伝統産業、職人たちの声から見えてきた「危機の本質」

和える・矢島里佳代表に聞く「ただ助けを社会に求めているわけではない」

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aeru『徳島県から 小石原焼の こぼしにくいコップ』を作る職人さん

織物や染織品、陶磁器など日本の伝統産業とその職人たちは、新型コロナウイルスの感染拡大によって今後の継続が危ぶまれるほど大きな影響を受けている。もともと高齢化や後継者不足の問題がある中、コロナが追い打ちをかけた格好だ。日本の伝統産業を未来に繋ぐ事業を行う「和える」(あえる、東京都品川区)代表の矢島里佳氏に、深刻化する現状と必要な支援のあり方について話を聞いた。(聞き手・伊藤快、鈴木奏絵、熊川京花)

―今回、SNSやメールを通じてアンケートを実施しました。

社会全体で新型コロナウイルスに対する危機感が2月下旬から4月にかけて高まるのに伴い、職人の方々からも、「売り先が目に見えてなくなってきている」という話が多く出ていました。そこで和えるでは伝統産業を支えるための取り組みとして、まず売り先を確保するためにオンラインショップ「aeru gallery」を、さらに中長期的に職人さんたちを応援できる「aeru電気」をそれぞれ立ち上げました。そして国から一般の方までがどう行動すれば日本の伝統産業を次世代に繋ぐことができるのか、私たちの取り組みが効果的に作用しているのかを知るうえで必要なデータを取るために、今回のアンケートを行いました。

和える代表・矢島里佳氏
―アンケートの結果をどう受け止めましたか。

今回のアンケートの特徴は、職人さん、つまり実際に物を作っている方の回答数が多いことです。アンケートに回答していただいた367人中297人が多種多様な業種の職人さんです。そういった職人の方々のリアルがこのアンケートにあると思います。今の社会には小売りや卸売り業などの売る側へのアンケートや対策が表立って出ていますが、その原点となる方々の声というものをしっかり発信すべきだと今回のアンケートを通じて感じました。

アンケートに回答した業種とその回答数
―職人の方々からはどういった声がありましたか。

「大変だ」という声は当然ありました。でもこのアンケートの結果を公表することで、ただ伝統産業への助けを社会に求めているわけではありません。アンケートの回答には『ただ頼る体質はあまりよくない』という声もありました。伝統産業は普段から補助金などに頼りがちなのは事実ですが、その体質から抜け出したいという声もあります。そのために、多くの方にまずは伝統産業界の現状を知ってもらいたいです。

求められる支援の内容として多かった意見
―5月25日に緊急事態宣言が解除されました。アンケートの実施当時と変化したことや良い兆しなどはありますか。

実際に変化が見えてくるのはここからだと思います。職人さんたちが百貨店などで開くリアルショップの動向はこの6月の動き方によって変化するので、1か月ほどで見通しが立つと思います。それとは別に、「aeru gallery」や他のサイトが運営するオンラインショップのような、伝統や職人さんを応援していこうという輪も広がっています。その応援の輪が具体的に機能し始めるのも6月からではないかと考えています。

aeru『徳島県から 本藍染の 出産祝いセット』を作る職人さん
―宣言が明けても、消費者が「自粛疲れ」のフラストレーションをうまく発散することができません。今後、需要が伸びるとしても緩やかなペースで、需要の発生から供給までもタイムラグがありそうです。

需要が喚起されてから職人さんたちにオーダーが入ります。このため、2月以前に出されていた仕事はおそらく5月、6月ぐらいまでかかっています。そのため、意外なことにデータ上では職人さんたちの直近の廃業リスクは低いんです。職人さんたちが深刻になるのはまさにこれから。今後の仕事が入るかどうかは、卸売業と小売業が新しいオーダーを出せるかにかかっています。飲食業のようにいきなり売り上げが落ちるわけではないことが、その深刻さを社会に理解されにくい要因になっているのかもしれません。『伝統産業は大丈夫なんだ』と思われてしまわないようにしないといけません。

業種別の廃業リスク。製造業より小売と卸売が直近のリスクは高い
―職人の方々の人数は他の産業より比較的少なく、と社会的な発信力も限られています。 一般の人たちに声が届きにくいという側面や、「大変なのはそこだけじゃない」という声もあります。

その通りです。だから今回のアンケートで私たちが思いがけず嬉しかったのは、「自分たちも大変なんだと言っていいんだ」「自分たちだけが大変なわけじゃないから言っちゃいけないと思っていた」という声が上がったことです。「自分たちの現状を伝えようとしてくれる会社があると知ることができただけで、続けようと思えた。心が救われた」と言ってくださる方もいました。

私たちはまだ何も大々的に応援できているわけではありませんが、職人さんたちの心をほぐすことができたのかなとアンケートから感じました。そしてこのアンケートで留意してもらいたいのは、緊急事態宣言中で直接訪問が叶わず、回答は全てSNSやメールなど、インターネットを利用できる方のものだということです。

―回答されているのは比較的に年齢が若い層の方たちということでしょうか。

そうですね。伝統産業界でも平均年齢がかなり若い方々だと思われます。高齢の方々は恐らくこのアンケート結果よりも深刻な状況だと考えています。というのも、回答された高齢の方の中には、これを節目に廃業しようとしている方もいるんです。若い方々からも「後継者がいなくて高齢の方が仕事を辞めてしまうのではないか」と心配する声もあがっています。

伝統産業は後継者不足が大きな課題になっている
―伝統産業は、私たちが目にする製品だけでなく、原材料や中間工程も含めて全ての工程が繋がることではじめて1つの作品を完成させることができます。その工程のひとつでもなくなれば、その伝統産業自体がなくなるという懸念もあります。

アンケートを呼びかける時に、原材料、中間工程の方も対象に入れたのも、最終製品を作る人と原材料、中間工程を担う人でも、業種業態によって現状に差があると思い、あえて分けています。私たち和えるは職人さんとお付き合いしているので、これらの業種で流れが違うと感じていて、結論もまとめずに分けました。

2019年4月と比較して2020年4月の売上がどれぐらい減少したか
―工程の話や業界特有の課題は、一般の人にはわかりにくいですよね。

職人さんたちは「職人」で一括りにされかねません。最終製品の方はオンラインショップに出品するなど自分でアクションを取れるのですが、原材料、中間工程の人たちはそれができない。「怠けている」「やる気がない」と言われてしまうような場合もあります。

職人さんの中にも自助努力できる人とそうでない人がいるということを明確にしたかったです。そういう人達の声を今回のアンケートで少しは拾えたと思います。原材料、中間工程の方々がいないと最終製品はできません。原材料の方々をいかに国や自治体が応援できるのかが、連鎖倒産を防ぐためには非常に重要な観点だと思います。

―コロナの状況下での伝統産業だからこその打撃・ダメージはどういったものがありますか。

打撃を伝えたかったというわけではなく、冷静に各業種、各セクターの方たちが危機に陥るタイミングを把握して、適切にどんな応援をするべきなのかを政策判断する立場の方たちに伝えたかったんです。どう大変なのか、どう危険なのか、どこで何が起きそうなのかというデータを一度整理したいと思っていました。

―漠然としていた危機感、不安を明確にしたかったということですか。

漠然としているのが一番怖くて、その漠然とした不安を冷静に捉えたかったんです。職人さんの中には「漠然と焦っていた気持ちが落ち着いた」という声もありました。そういう役割を果たすことができたのは嬉しかったです。

伝統産業の「織物」も陶磁器に次いで取り扱われている
―矢島さんが見聞きしてきた中で、支援を受けるためのサポートの必要性を感じたエピソードはどういったものがありますか。

「経営相談をしたい」という意見がでてきたことです。職人さんは作り手であって経営者ではないんです。支援策の活用法などもすぐには判断できないので、こういったご意見も出てくるのだと思います。従業員数も見てもらうと分かりやすいのですが、従業員数が0から5名が大半です。そしておそらくそのほとんどが1人か2人なんです。ファミリービジネスが伝統産業界のもうひとつのポイントで、職人さんたちは経営者ではなく作り手だというのが、従業員数の少なさにも出ていると思います。

アンケートに回答した伝統産業の従業員数。大半が5名以下
―家族経営であるからこそ、経営や申請など、お金に関わるサポートを受けるための判断が難しいということですか?

書類作りというのはある種、ひとつの能力です。職人さんたちは普段からそう言った業務をやっているわけではないんです。もうひとつ留意してほしいのが、支援を受けるための元金が確保できないので、支援を受けることができないという事態も起きていることです。なので、職人さんたちが利用している支援制度の順位は、元金が無くても給付を受けられる持続化給付金と、比較的に給付を受けやすい雇用調整助成金が上位2つで、3位には「利用申請をしていない」が来てしまうんです。職人さんたちは普段から「職人という職業は銀行からお金を借りにくい」と言っていて、銀行からの融資を受けにくい立場にあります。

―伝統産業の製品の買い手には近年増えていたインバウンド(訪日外国人客)がありましたが、それがなくなったことは痛手ですね。

今は簡単に言えば全世界が鎖国状態です。インバウンドの人たちに無責任に「来てください」とは言えません。日本に来てもらうことができなくなった今、やはりオンラインショップ上で販売するとか、オンラインで接客して海外に発送するなどの越境ECしか方法はないと思います。ただ、現実的には海外への輸送もままならない状況なので、国内でいかに応援し合えるのかというのが今は重要です。世界のコロナの状態が落ち着いて航空便が回復してきたころに、海外の方にサービスや商品や価値をお届けできるよう、今は準備の段階です。

―今後和えるとして伝統産業をどう支援していきますか。

私たち自身、実は「支援している」という発想はありません。和えるを生み出した時から変わらないのは、職人さんたちがいてくれるからこそ、私たちは日本の伝統を次世代に繋ぐことができるという考えです。私たちの暮らしを優しく豊かにする協力をしてくれているのが職人さんだと捉えています。

和えるは日本の伝統を次世代に繋ぐことが前提の事業しかやらないと決めています。コロナがあったから職人さんの応援を始めたわけではなく、その前も今も後も、変わらず職人さんたちの協力を得て、日本の伝統を繋いでいくというお仕事を続けていきたいと思います。また、オンラインで職人さんたちの工房を見学するツアーを開催したり、新しい職人さんたちとの関わり方、コミュニケーションの取り方も増えてきて、作り手と受け手の距離がさらに縮まるチャンスなのかなと考えています。

―このチャンスを今後生かしていける活動をするということでしょうか?

みんながしっかりとチャンスに捉えられるかどうかですね。「大変だったね」で終わらせるのではなく、そこから「伝統産業界って変わったね」と言われるきっかけになるような、ポジティブな方向に変えていきたい。それは和えるが、というよりはみなさんと共に取り組んでいくことだと思います。


矢島 里佳(やじま りか)

東京都生まれ。職人と伝統の魅力に惹かれ、19歳の頃から全国を回り始め、大学時代に日本の伝統文化・産業の情報発信の仕事を始める。「日本の伝統を次世代につなぎたい」という想いから、大学4年時である2011年3月、株式会社和えるを創業、慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2012年3月、幼少期から職人の手仕事に触れられる環境を創出すべく、“0歳からの伝統ブランドaeru”を立ち上げ、日本全国の職人と共にオリジナル商品を生み出し、オンライン直営店から始まる。2014年には事業拠点となる東京「aeru meguro」、2015年京都「aeru gojo」をオープン。「ガイアの夜明け」(テレビ東京)にて特集される。
 日本の伝統を泊まって体感できる“aeru room”、日本の職人技で直す“aeru onaoshi”など、日本の伝統や先人の智慧を、暮らしの中で活かしながら次世代につなぐために様々な事業を展開中。 著書に和える創業までの物語を綴った『和える-aeru- 伝統産業を子どもにつなぐ25歳女性起業家』(早川書房)など。

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