【ディープテックを追え】夢のリチウムイオン電池の実現へ。そのカギは?
「燃えにくく、寿命やエネルギー密度に優れた電池。リチウムイオン電池の欠点を補う、まさに“夢”の電池を実現するカギはセパレーターにある」-。こう話すのは、スリーダム(横浜市神奈川区)の小黒秀祐副社長だ。「全ての移動体の電動化を図る」という同社のミッションを実現する手段や技術について探った。
デンドライトを乗り越える
リチウムイオン電池を構成する要素は主に四つだ。リチウムイオンを離したり、留めたりする役割を持つ正極と負極、イオンを媒介する電解液、そして正極と負極を絶縁するセパレーター。
電池研究の歴史は古く、多くのブレークスルーが起こってきた。それでも乗り越えられない課題がある。負極の表面にできる針状の金属結晶「デンドライト」の存在だ。
デンドライトは成長し、正極に触れると発火する恐れがある。また、電流の分布が不規則になることで、バッテリーの劣化を早める原因になる。デンドライトを抑制するため、正極や負極、電化液の研究は取り組まれてきた。一方、セパレーターは他の材料に比べて、研究の蓄積が浅い。このため、二次電池のブレークスルーを起こす“ラストフロンティア”とみられている。
スリーダムが開発したのは、独自の「三次元規則配列多孔構造」を持つセパレーターだ。同社はセパレーターの孔(穴)を規則的に配置することで、電流の分布を均一にした。これまでは穴が不規則に空いているため、正極と負極を行き来するリチウムイオンの反応が不均一になり、デンドライトが発生する原因になっていた。パナソニックで長らく電池研究に携わってきた小黒副社長は「電池メーカーにとってセパレーターは『いかに価格を落とすか』という対象だった」と語り、「二次電池の性能にブレークスルーを起こしたい」と意気込む。
実際、同社のセパレーターは耐熱温度が400度と、これまでに比べ100度以上高く、燃えにくい。また、空孔の割合も汎用品に比べて30%以上多い。これにより、電解液を多く保持でき、電池の寿命やエネルギー密度を高めることができた。
量産ライン開始
当面は、電池の寿命やエネルギー密度を高めた二次電池の開発を急ぐ。2021年10月からはセパレーターの量産ラインを稼働する。22年度中には性能検査を実施し、リチウムイオン電池への活用を目指す。今後は量産ラインを使い、製造ノウハウを自社で蓄積しつつ、将来は他社での製造を想定する。
研究開発を指揮する成岡慶紀ゼネラルマネージャーは「将来は、年中気温が高い地域向けに発火性の低い高粘度の電解液を使った『耐高温電池』や、負極にリチウム金属を使う『リチウム金属電池』の研究開発も続ける」と展望を話す。
電池残量を予測
富士経済(東京都中央区)の調査によると、24年の車載向けリチウムイオン電池の市場規模は19年度比で2.6倍の6兆7403億円に膨らむと予想する。その他の小型製品や蓄電池向けの需要も増加するとしている。
電池の用途が広がる中で、製造した電池の容量を余すことなく使い切る視点も必要だ。例えば、電気自動車(EV)には適さなくなった電池を、家庭用の蓄電池に活用する。このような中古市場の実現には、電池の容量を定量的に監視し、改ざんができない形で共有する必要がある。
スリーダムは電池容量の残存価値を予測し、ブロックチェーンで監視するシステム「BRVPS(ビーアールブイピーエス、Battery Residual Value Prediction System)」も手がける。製造された時点から、電池の使用状況をモニタリングし、企業や個人が中古の電池を安心して購入できる仕組みを構築する。
スリーダムが電池の周辺システムを包括するように事業展開をするのも、歴史を繰り返さないためだ。2000年代は有数の“電池生産国”だった日本も、韓国や中国メーカーとの価格競争に陥った。同社は単なる電池の「物売り」から脱し、周辺サービスも含めた提案を模索する。小黒副社長も「電池の性能を高めることや用途広げるのではなく、いかに安く作るかの競争には限界がある」と口にする。開発するセパレーターも、価格競争には距離を置き、性能の良さを訴求していく。需要が高まる市場で同社がシェアを確保できるか、注目だ。
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