新幹線の速度向上を後押し、鉄道総研が完成させた時速500kmに対応する性能評価装置の実力
鉄道総合技術研究所(鉄道総研)が鉄道の高速化に対応する技術開発を急いでいる。東京都国分寺市にある国立(くにたち)研究所内に新棟を設け、高速でパンタグラフを試験できる装置や、輪軸や台車部品の耐久性、性能などを評価できる装置を相次いで完成させた。新幹線のスピードアップなど、環境変化に合わせた装置を通じ、試験性能の向上に結びつける。(浅海宏規)
集電電流に対応
鉄道総研では昨秋、新幹線のパンタグラフ性能を評価する試験装置を完成させた。列車に電力を供給する「トロリ線」から大電流を取り入れながら、パンタグラフが高速で走行する状態を再現する。
鉄道総研が所有する従来の装置は完成から40年以上が経過しており、最高速度の対応も時速300キロメートルまでだった。開発した装置は最高速度が時速500キロメートルまで対応し、「世界トップレベルの性能」(鉄道力学研究部の小山達弥集電力学主任研究員)を実現した。
通電電流を最大1000アンぺア、通電電圧を最大600ボルトまで向上。通電電流を向上したことで、「新幹線に使われるパンタグラフ1基あたりの集電電流に対応できる」(小山主任研究員)ようにした。
新たに試験室の内部には環境雰囲気制御装置を設置し、温度や湿度の制御を可能にした。また、試験室内部には送風装置を付け、走行時の環境に近い状況を再現できる。
従来の装置はトロリ線を銅板で代用していた。新開発の装置は「実際のトロリ線を円盤に取り付け、その円盤を回転させることで試験する」(小山主任研究員)など、再現性も高めた。
安全性高める
「鉄道車両において最も重要なテーマは安全性の向上だ」―。石毛真車両構造技術研究部長は、こう強調する。
鉄道総研で今年2月に完成した「高速輪軸試験装置」は、輪軸や台車部品の耐久性や性能を評価する装置だ。軌間は1067ミリメートルと1435ミリメートルに対応しており、在来線と新幹線どちらも試験が可能だ。
外周部がレール断面と同じ円盤の形状をした「軌条輪」と呼ばれる大きな鉄車輪を高速で回転させることで、輪軸が軌条輪上を回転し、台車が最高速度時速500キロメートルでレール上を走行する状態を再現可能にした。車両走行中の動きや揺れを再現するため、上下左右方向の加振機器を計3本(上下加振機器2本、左右加振機器1本)組み込んだ。
また、車両を加速・減速させる際、輪軸にかかる回転力(トルク)などの付加条件を設定して再現できるのも特徴だ。このため、輪軸の構成部品や台車部品などが損傷した際の原因究明や現象解明への活用が期待できる。 実車に近い条件で耐久性の評価試験を進め、「部品の寿命を評価したり、検査周期を延ばしたりすことで、保守作業の効率化につながるようにしたい」(石毛部長)考えだ。