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AIで「勉強のやる気を脳に聞く」。情通機構が挑む研究の中身

近年、人工知能(AI)技術を使って脳活動の情報を読み解くことで、その人の感情状態や、疲労などによる注意力の散漫、課題に対する熱中度、といった人間の精神・感情状態を推定できるようになってきた。我々人間は、気が付いたら疲労で集中力が途切れてしまっていたり、いつのまにか没頭してしまっていたり、必ずしも自分自身の感情・精神状態を、常に明確に理解しているわけではなく、意外にも無自覚な場合も多い。そういった場合、本人の自己判断よりも「脳に直接聞く」という方法が有効となると思われる。このような技術は、例えば、集中力低下による交通事故や作業中のヒューマンエラーを未然に防ぐためのシステムに応用可能である。

情報通信研究機構(NICT)脳情報通信融合研究センター(CiNet)の私たちの研究グループでは、脳から読み解く感情・精神状態を「勉強に対するやる気推定」に応用する研究を行っている。脳波と呼ばれる頭皮上で計測される脳の電気信号を、勉強中に計測し、そのデータをAIに学習させることで、勉強へのやる気度合いを定量化する。

「勉強へのやる気」が高い条件(実線)と低い条件(点線)の勉強中の脳波の波形パターン。高い条件の方が、枠の時間において波形がより下方向に振れていることが分かる

脳波を使うと、人間の認知や情報処理を高い時間分解能(ミリ秒)で明らかにできる上、近年の技術開発によって、計測装置を身に付けることができるほど小型化されていることから、勉強中などの日常生活の中で脳活動が計測できるようになってきている。我々は、小型ワイヤレス脳波計測装置を使って、足し算課題を解いている時の成人男女の脳波を計測・解析したところ、勉強中のやる気が高まってくると、脳波の波形パターンが異なることが分かってきた。

近年、学習者の課題成績・進捗(しんちょく)度合いなどに応じて、AIが学習内容を推奨してくれるe―learningシステムが開発されている。

脳波研究のさらなる進展により、成績や進捗といった学習者の「行動」だけでなく、「脳に聞く」やる気度合いに応じて、勉強内容をお勧めしてくれる日が来るかもしれない。

(文=渡部宏樹)
情報通信研究機構未来ICT研究所 脳情報通信融合研究センター・脳機能解析研究室研究員。2019年奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科博士後期課程研究指導認定退学、同年より現職。実環境下における脳波データ解析に関する研究に従事。博士(工学)
日刊工業新聞2021年5月18日

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