取引価格の適正化へ実態調査、企業庁が賃上げ分価格転嫁促す

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経済産業省・中小企業庁は、最低賃金の引き上げに伴う受発注企業間の取引価格の実態を把握するため、受注側である下請け中小企業を対象にした調査を始めた。下請け中小が労務費上昇分を価格転嫁できているのか、発注側との価格交渉の有無を中心に調査し、取引価格の適正化に向けた対策に生かす。岸田文雄首相は経済政策の主題に「成長と分配の好循環」を掲げ、下請け中小対策を強化する方針だ。大企業と中小が共存共栄できる環境整備の構築が期待される。(下氏香菜子)

企業庁は取引問題を専門的に調べる「下請Gメン」による下請け中小2000社へのヒアリングと、数万社を対象にした書面によるアンケート調査を実施する。賃上げに伴う価格交渉の有無や価格転嫁の状況などを把握する。

企業庁は9月に「価格交渉促進月間」を設定し、受発注間の取引価格の適正化に向けた啓発活動を重点的に実施した。調査では同月間の効果も検証する。2022年初頭にも調査結果を公表し、業種別に価格転嫁の受け入れ状況を見える化するほか、価格交渉のモデルになる事例を紹介する。一方、下請法に違反する案件があれば公正取引委員会(公取委)と連携し、厳正に対処する方針だ。

公取委も賃上げに伴う下請け中小へのしわ寄せ防止対策を9月にまとめた。下請け中小約30万社を対象に毎年実施している取引実態調査で価格転嫁に関する質問項目を追加し、製造業や卸売り業など「買いたたき」の違反事例が多い業種を重点的に調査する。価格交渉に関する情報収集や相談対応を強化し、取引価格の適正化につなげる。

企業庁や公取委が取引価格適正化に向けた対策強化に動くのは、労務費や原材料費など事業コストが上昇局面にある中で、価格転嫁が適切に行われていない実態があるからだ。帝国データバンクが受注側に対して実施した直近1年のコスト変動に対する価格転嫁の状況調査では、「転嫁できなかった」と回答した企業は製造業、サービス業いずれも約4割を占めた。こうした企業の中には「価格交渉機会すら設定できていないケースがある」(企業庁幹部)という。

4日に発足した岸田政権は下請け中小対策を重視する見通しだ。岸田首相は経済政策の主題に「成長と分配の好循環」を据え、経済成長の成果を適正に分配することによる中間層の拡大を目指している。具体策として企業に従業員の賃上げを促す税制措置のほか、下請け取引適正化や監督体制の強化による“下請けいじめゼロ”を掲げる。

取引価格の適正化は中小の生産性向上に直結するため、不当なしわ寄せは日本の産業界の競争力低下につながりかねない。政府はもちろん、サプライチェーン(供給網)の上流にいる発注側大企業が旗振り役となって、価格交渉を積極的に働きかける取引環境づくりが求められている。

日刊工業新聞2021年10月12日

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