カメラの脚立は3本脚で机は4本脚。なぜか知っていますか?
位置決めの基本
「位置が決まる」とは
「位置を決める」や「位置決め」といった表現は、設計でも製造現場でも一般的によく使われています。それでは、どうなれば「位置が決まった」といえるのでしょうか。この点を深掘りして見ていきましょう。
ある空間内で位置を決めるとき、まず前後・左右・上下合わせて3方向のどこに固定させたいかを決める必要があります。しかし、この3つだけでは位置は決まりません。それは回転が伴うからです。たとえば図1の(a)のように前後を決めても、同図(b)のように自由に回転することができます。
6つの動きを決める
すなわち前後・左右・上下の3つの「移動」に3つの「回転」を加えて、6つの動きを決めることで「位置が決まる」ことになります。これを図示するために、原点をO、前後をX 軸、左右をY 軸、上下をZ軸とすると、
①軸OXに沿う移動(前後方向)
②軸OYに沿う移動(左右方向)
③軸OZに沿う移動(上下方向)
④軸OX中心の回転(前から見た回転)
⑤軸OY中心の回転(横から見た回転)
⑥軸OZ中心の回転(上から見た回転)
以上6つの動きが決まって、はじめて位置が決まるのです(図2)。逆に位置が決まらない場合には、この6つの中のどれかが決まっていないことになります。
角形状の位置決め
それでは、角形状の位置決め手順を見ていきましょう。
1)まず3点で保持
これにより前述の「③軸OZに沿う移動」「④軸OX中心の回転」「⑤軸OY中心の回転」が決まります(図3の(a))。
2)次に2点で保持
「②軸OYに沿う移動」「⑥軸OZ中心の回転」が決まります(同図(b))。
3)最後に1点で保持
「①軸OXに沿う移動」が決まり、6つすべてが決まることで位置決めが完了します(同図(c))。
角形状の位置決めは「3・2・1 の法則」
先の項で保持する箇所が3点→2点→1点の順になっています。これが位置決めの基本「3・2・1の法則」です(図4)。すなわち、これより多くても少なくても位置が決まりません。
たとえば最初の3点が4点だった場合を考えてみましょう。まず対象物を受ける治具の4点が完全な同一平面になることはありえません。これは加工精度に多少なりともバラツキが生じるからです。
また位置決めする対象物も同じく、位置を決める面が完全平面ではありえません。そのため4点で受ける構造でも、実際に接触するのは3点だけで、残りの1点は接触せずにスキマのある状態になります。このとき接触する3点は、同図(b)において、あるときは△ABC、あるときは△BCD、△CDA、△DABになります。すなわち基準が毎回異なるので、これでは位置が決まらないわけです。もしも毎回△ABCで接触するならば問題ありませんが、そうするとD点は不要となり、すなわち3点保持になります。
「 3・2・1 の法則」の身近な例
わかりやすい例は、カメラを固定する三脚です。三脚はカメラの位置を決めて固定するので、まさに治具そのものです。三脚の足は3本です。4本足の四脚は売られていません。もしあったとしたら、4本を地面に同時にピタリと接地させることは至難の技です。
一方、1本足の一脚は市販されています。なぜ1本足で位置が決まるのでしょうか。それは一脚に固定したカメラを、人がしっかりつかみます。すると一脚の1本と、人の2本足を足して3本になるので位置が決まるのです。
以上が「3・2・1の法則」の3の理由です。次の2と1も同じ理由で、2点が3点になるとこのうちの1点は必ずスキマが生じます。最後の1点も2点になると同じくどちらか1点にはスキマが生じて位置が定まりません。
なぜ平面で保持するのか
この「3・2・1の法則」に従えば、位置決めする際の底面は3点で保持しなければならないのに、実際にはほとんどが平面で受けているのはなぜでしょうか。それは3点で受ける構造に対して平面で受ける構造は、位置決めの精度が劣る反面、設計も製作も簡単で低コストなためです。
すなわち平面で受けるのは以下の場合です。
①高精度な位置決めを必要としない場合
②安定性を必要とする場合
③大きな力を受ける場合
④対象物の剛性が低くてたわみやすい場合
机が4本足の理由
机や椅子も、足の数が3点でなく4点なのはなぜでしょうか。これは前述の理由で、高精度な位置決めは必要なく、大きな力がかかっても安定性をもたせるためです。机が3点保持だと、机の角に体重をかけると倒れてしまいます。椅子も少し重心がずれるだけでひっくり返ってしまいます。そのために4本の必要があるわけです。また4点とも床に接地しているのは、机や椅子の剛性が低くて、たわんでいるからに他なりません。
(「はじめての治具設計」より一部抜粋)
<販売サイト>
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Rakutenブックス
日刊工業新聞ブックストア
<書籍紹介>
業種を問わずモノづくり現場の課題は、QCDすなわち「製造品質」「製造原価」「生産期間」を改善することで、この達成手段の1つが治具である。本書は、「メカ設計」と「作業設計」の両面から治具設計について解説した入門書。
書名:はじめての治具設計
著者名:西村 仁 著
判型:A5判
総頁数:176頁
税込み価格:2,200円
<著者>
西村 仁(にしむら ひとし)
ジン・コンサルティング代表/生産技術コンサルタント
「ジン・コンサルティング」ホームページ
●略歴
1962年生まれ 神戸市出身
1985年 立命館大学 理工学部機械工学科卒
2006年 立命館大学大学院 経営学研究科修士課程修了
株式会社村田製作所の生産技術部門で21年間、電子部品組立装置や測定装置等の新規設備開発を担当し、村田製作所グループ全社への導入設備多数。工程設計、工程改善、社内技能講師にも従事。特許多数保有。
2007年に独立し、製造業およびサービス業での現場改善による生産性向上支援、及び技術セミナー講師として教育支援をおこなう。
経済産業省プロジェクトメンバー、中小企業庁評価委員等歴任。
●著書
『図面の読み方がやさしくわかる本』日本図書館協会選定図書
『図面の描き方がやさしくわかる本』
『加工材料の知識がやさしくわかる本』
『機械加工の知識がやさしくわかる本』
『機械設計の知識がやさしくわかる本』以上、日本能率協会マネジメントセンター
『基本からよくわかる品質管理と品質改善のしくみ』日本実業出版社
<目次>
第1章 治具を導入する狙い
治具とは/治具の効果と基本要素
第2章 位置決め方法
位置決めの基本/角形状の端面基準「面当たり方式」の位置決め/角形状の端面基準「ピン当たり方式」の位置決め/角形状の端面基準「調整方式」の位置決め/角形状の穴基準「丸ピン方式とダイヤピン方式」の位置決め/角形状の穴基準「長穴方式とダボ方式」の位置決め/角形状の底面基準の位置決め/丸形状の位置決め
第3章 固定方法
固定の基本/市販の固定具/丸形状の固定方法/固定の機構/真空吸引による固定
第4章 ねじの活用
ねじの基礎知識/メートルねじ/ねじとボルトの種類/ねじの選び方/ねじ関連の知識
第5章 運動の案内と測定器
平面運動の案内部品/往復直線運動の案内部品/回転運動の案内部品/治具に便利な機械要素部品/測定の基礎/直接測定の測定器/間接測定の測定器/その他の測定器
第6章 作業性と段取り性
効率の良い作業手順と作業環境/作業性の良い治具構造とミスを防ぐポカヨケ/段取り改善
第7章 設計のコツ
頑丈な設計のコツ/材料の重さと熱による影響/はめあい公差のコツ/標準化を進めるコツ