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【ノーベル賞受賞】「温暖化が深刻になるのは…」真鍋さんが記者に語ったこと

【ノーベル賞受賞】「温暖化が深刻になるのは…」真鍋さんが記者に語ったこと

インタビューに応じる真鍋淑郎さん


2021年のノーベル物理学賞は、米国籍の真鍋淑郎米プリンストン大学上席研究員ら3人に贈られることが決まった。

真鍋氏は東大院修了後に米国立気象局(現米国海洋大気庁)に入局。温室効果ガスの増減に大気と海洋が及ぼす影響について、コンピューターを用いて予測する手法「大気海洋結合モデル」を開発した。

過去に日刊工業新聞のインタビューに応じた際は、地球温暖化の進行や研究面の課題を鋭く指摘していた。当時のインタビューを再掲載し、真鍋氏の足跡を振り返る。

忍び寄る地球温暖化、数世代先に深刻な痛み

日刊工業新聞2002年5月22日

地球温暖化防止に向けた京都議定書は日本も批准して実行のフェーズに入る。地球温暖化が進むとどんな形で世界中に影響を与えるのか。数値気候モデルの気候変動予測で世界の第一人者・真鍋淑郎プリンストン大学客員教授(海洋科学技術センター特別研究顧問)が来日したのを機に聞いた。

―50年後の温室効果ガスは産業革命前の2倍になり、地球の温度は今より1.5度C上がると予測しています。

「CO2は一時横ばいになったがまた増えるのは確実。温室効果ガスは年1%ずつ増え、22世紀中に4倍になるのは間違いない。これは白亜紀に近い温度で、全地球平均で今より6度Cアップする。赤道付近の陸面も5、6度高まり、人間の体温と同じになる。シベリアは10度上昇し、北極海は海氷がなくなる(この30年間で氷の面積は8%減る)。しかし南極の海氷は減らない」

―点で見ると温暖化が本当に起こっているのかとの疑問もある。

「確かにその時々で暖かったり寒かったりするが、年平均では自然変動よりはるかに温暖化は進んでいる。毎日の天気はランダムだが、年で変動を見ると明らかに温暖化は進んでいる」

―50年後に1.5度C上がる影響は。

「半乾燥地帯はどんどん乾いていく。米は南西に砂漠が広がり、豪州も草原が急速に減っていく。サハラ砂漠は南に広がり、北も半乾燥地帯が砂漠化する。地中海周辺は土壌水分が減り、黄河流域もどんどん乾燥する。1年で夏はすごく乾き、秋と春も乾きだすなど作物が成長する時に乾き方が大きくなる」

―京都議定書に各国がきちんと取り組んでも不十分ですか。

「間違いなく不十分。米は京都議定書に加わればエネルギー使用量を2010年で今より25%もカットしなくてはいけない。こんな数値は達成できず、議定書に加われば無責任のそしりも免れない。議定書に加わらなかった一つの要因だ。議定書を守る程度では温暖化には焼け石に水だが、何かをやることは大切」

―今は温暖化とはいっても深刻さはない。

「問題が深刻になるのは我々の何世代も後。21世紀はまだ大きな傷みを感じるところまではいかないだろう。今の日本経済と似ていて、何かがおかしくなってきたが、まだ大丈夫と皆がとらえている。気がついた時(22世紀)はだれの目にも温暖化が耐えられない厳しさとなってくる」

CO2削減へ技術開発で国際協力は可能

日刊工業新聞2001年7月26日

ボンの気候変動枠組み条約第6回締約国会議(COP6)再開会合は、京都議定書は運用ルールに関して包括合意し、2002年発効に向けぎりぎりで生き延びた。しかし米抜きの温暖化防止の意味や、罰則規定を発効段階でも加えないことになれば、実効性は極めて弱くなる懸念もある。数値気候モデルによる気候変動予測研究の世界の第一人者である地球フロンティア研究システム・地球温暖化予測研究領域長の真鍋淑郎氏に地球温暖化問題の今後について聞いた。

―温室効果ガス削減目標で罰則規定が棚上げされました。

「痛みを伴わない規定は事実上、ターゲットを守ることが不可能に近くなったことを示している。そうすると日本が目指しているゴールの達成など甘い。ターゲット数値まで各国の温室効果ガスの削減は進まないだろう。温暖化の進行を京都議定書で阻止するのは出来ないのでは」

―米は京都議定書からの離脱を表明し、ボン会議でもその主張を貫いた。

「昨年まで米では地球温暖化を唱えるのは研究費を欲しがるハッタリ屋で、研究は信用できないとの意見が強く聞かれた。しかしブッシュ政権は米科学アカデミーに、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の主張していることはバイアスのないレポートかどうかを1カ月で報告せよと命じた。私も呼ばれたが、科学アカデミーが提出した報告の結果、ホワイトハウスは温暖化がおこりつつあることを認めた。でも京都議定書を本気で実行するには、今の米経済が痛みを伴うと離脱を表明した」

―米は地球温暖化防止に向けた技術開発の手は抜かないと言っています。

「結局、新テクノロジーの開発で、米も日本も一段と効率の高いエネルギーソースや二酸化炭素を発生しないシステムの研究に全力を挙げることが命題となってくる。新テクノロジーの採算が合えば、各国はもっと本気で温暖化問題に取り組むこととなる。例えば太陽電池で得た電気で水を電気分解し、水素として蓄え利用する水素エコノミーの時代を目指すといったようなクリーンエネルギーソースの開発は命題だ」

―日本が進めるべき研究は。

「北極の氷の面積はこの20年で数%減った。グリーンランドの大陸氷河も減っている。海の色も含め生態系が変わっていることを全地球的に精査するため人工衛星を使い宇宙から調べることは重要。02年には地球シミュレーターが出来る。こうした武器をフルに使うことで気候変動予測の研究は飛躍的に進むだろう」

―現状では21世紀末に全地球で平均3度C上がると言われています。

「陸でいえば4.5度C上昇する。大変な数値だ。北半球の温度変化でこの100年は明らかに類を見ない上昇になっている。今、日本が実行すべき温暖化防止対策は、クリーンエネ、クリーンテクノロジーの開発だ。それには積極的に資金を投じる策が重要。地球温暖化問題は利害が交錯しているので、国際会議で一致するのが難しい。でも技術開発なら一致協力しての対応は十分可能だ」

真鍋叔郎氏(米プリンストン大学上席研究員=18年5月撮影)

研究者の層を厚くする努力を

日刊工業新聞1999年9月21日「クローズアップ ひと」より

「今後、地球温暖化防止のため少々のことをしても焼け石に水。二酸化炭素を出さないよう努力しても地球の二酸化炭素の量はいずれ2倍になる。普通のビジネスレンジだと向こう200-300年で3-4倍に増える。400-500年先には恐竜時代の温度に近くなる」。今までの地球では考えられないスピードで温暖化が進んでいると指摘する。

真鍋が米気象局の研究官時代の60年代終わりに、ブライアンと共に大気―海洋―陸面結合モデルを世界で初めて開発し、陸面―大気の熱交換がどのように行われるかを3次元の大気循環モデルに、海洋モデルも加えて気候予測をする先鞭(せんべん)をつけた。地球温暖化モデルの先駆けで、現在このモデルはエルニーニョの予測にも使われている。

地球温暖化は特に60年代からはっきりとした形で現れている。このため大気―海洋結合モデルで二酸化炭素の量も石炭を燃やし続けたらどう変わるか、規制して二酸化炭素を減らしたら、将来どのくらい抑えられるかを予測することも始まった。気候変動に関する政府間パネル作業部会の報告書作成でも責任者として参加する。温暖化が起こっているのかどうかは大陸氷床の同位元素の解析などを調べ、「1900年より今は気温が0.7-0.8度C上がった。この上がり方は極めて異常」だとも。2万年前には最大氷河期で温度が7度C下がったが、8000年前には今の氷の状態になり、現在に至るまでほとんど変わっていないのだから。

「極地の温度が0.75度C上がることは、大陸では1度を超える上昇となる。今年のように夏、暑い日が何日も続く状態が増えていても、温暖化の影響よりも自然変動の方の影響が大きいと見る向きもいまだ多いが、20-30年過ぎたら、暑い日がさらに増えたと体感として感じる人が非常に増えるだろう」と、もうしばらくすると温暖化はだれの目にも明らかになってくると指摘する。

「21世紀は全地球的に2度C上昇し、陸では3―4度C上がるだろう。北極では7度も上がる。冬・北極圏は10度C上がる」と予測する。永久凍土は崩れ、メタンも発生する。ただ21世紀はバイオテクノロジーの時代だけに、「温暖化へ農業を適応させることをすることで、マイナスとばかりも言えない」とも。生態系の危機は以前は数千年単位で起きたが、今回は200―300年単位で訪れることとなる。「バングラデシュではモンスーンが強くなり、国土が洪水に浸るなど、途上国は適応が難しい。オゾン問題より社会的問題として利害が錯綜(さくそう)しているだけに、はるかに複雑だ」と人類には耐えられない厳しさが待ち構えてもいることとなる。

米国での39年間に上る気候モデルでの先駆的な研究から2年前に帰国し、現在のポストへ。モデルを使い、気候変動予測、大気組成の予測、生態系の変化の研究を、これから宇宙開発事業団が上げる地球監視衛星などを通し、地球の変動を予測していく。2年後には地球シミュレーターも作りあげるなど、「国はすごいプレゼントをしてくれている。ただ受け皿は出来たが、研究者が使いこなせるかは大きな命題。日本は科学者の層が薄い。ハードがすごくとも研究者の層が厚くなっていないと十分生かされない」と、そのためにも東大偏重主義から、地方大学の時代へと変えていかなくてはと鋭く指摘する。(敬称略)

 まなべ・しゅくろう 58年(昭33)東大院理学系研究科修了後、米国立気象局(現米国海洋大気庁)で40年にわたり気象研究に従事。97-01年には旧科学技術庁の地球フロンティア研究システム地球温暖化予測研究領域長に就任。米国科学アカデミー会員。後に米国籍を取得。愛媛県出身、90歳。

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