【単独インタビュー】ノーベル賞の吉野さん「若手は35歳をめどにライフワークの研究を始めよう」

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旭化成名誉フェロー・吉野彰氏

2020年ノーベル賞の発表を来月に控え、今年も国内研究者の受賞に期待が高まる。一方、日本の論文発表数は減少傾向で若手研究者の長期的な研究の難しさも指摘され、将来にわたり世界で評価される研究成果が続くには課題も多い。第一線の研究者は日本の研究環境をどうみているのか。リチウムイオン電池の開発者で、19年にノーベル化学賞を受賞した旭化成の吉野彰名誉フェローに現状と展望を聞いた。

―日本からの論文数減少など、研究力低下が懸念されています。

「企業論文の投稿が大学以上に減っており、産業界にも責任がある。研究成果を役立てるための製品も企業が考えるべきことだ。大学は役に立つか無関係に真理を探究することと産業界に提案できる芽を育てる二つの役目がある。現在は全ての研究者が真ん中をうろうろしていてまず成果が出ない。真理を探究する分野の研究者は役に立つかという点を考えなくてよい。両輪体制の徹底が研究力向上のカギだ」

―ご自身が世界的な発明をできた要因は。

「もし電池メーカーに勤務していたらできていないだろう。旭化成という素材メーカーだからこそ節目でさまざまな材料を集められた。世の中にあるものの組み合わせだけでは独創的にならない。社内だからこそ開発中の材料の情報が手に入り、欲しい材料を形にもできた。また、今の大規模市場を想像できていたわけではないが予兆はあった。発想を形にできる環境とニーズの想定、二つがそろったことが重要だ」

―経験を踏まえ、若手研究者への助言は。

「私は『実るほど頭を垂れる稲穂かな』という言葉が好きだが、実るまで頭を垂れてはいけないという意味もあると考える。若い人は反対を押し切ってでもやり遂げる気概が必要だ。35歳をめどにライフワークとする研究を始めるのがよい。30代は経験を積み一定の権限も持てるようになり、挑戦する若さもある。私自身も33歳でリチウムイオン電池の研究を始めた」

―研究環境の整備も必要です。

「若手が自由に研究テーマを設定できる環境も重要だ。そのためには大勢のうち1人でも成果が当たればよいと割り切ることも必要となる。今年、文部科学省が自由で挑戦的な研究の支援のため新設した『創発的研究支援事業』は期間が7―10年間の長期という点が評価できる。従来、短期間での成果を求められることが多かった若手研究者にとって、安心して長期間取り組めることは重要だ」

【記者の目/「頭垂れない」土壌作れるか】

世界的な研究成果を産むには研究者自身の柔軟な発想と萎縮せずアイデアを実行できる環境が必要だ。歴代のノーベル賞受賞者ら多くの研究者が若手の研究環境改善を訴え続け、国の施策も増え社会の理解も進んできた。吉野氏のいう「実る前に頭を垂れない」研究者が生まれる土壌を作れるか、日本の研究力の再向上へ期待がかかる。(安藤光恵)


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日刊工業新聞2020年9月24日

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