ホンダジェット1号機納入へ。その魅力に迫る
エンジンも外販 希有なビジネスモデル
日刊工業新聞2014年11月21日付
「2輪、4輪、船外機の陸・海にとどまらず、空の移動体の夢も追いかけてきた。その夢が今、現実になっている」。2014年11月、米ノースカロライナ州で開いた航空機エンジンの量産開始式典で、本田技術研究所の山本芳春社長は感慨深げに語った。
航空機エンジンの量産体制を整え、第1号基はホンダジェットに納入する。そのホンダジェット第1号機の納入は2015年早々に控えている。エンジン・機体ともに事業が動き始め、創業者本田宗一郎氏が夢に描いた航空機事業の参入が、本格開発を始めた1986年から28年を経て結実しようとしている。
ホンダ子会社のホンダエアロが量産を始めた航空機エンジン「HF120」は、米ゼネラル・エレクトリック(GE)と共同開発し昨年末に型式認定を取得。ホンダジェットへの搭載が決まっている。機体改造を手がける米シエラ・インダストリーズとは、中古機にHF120を載せ替えることで基本合意している。燃費性能の良さやオーバーホール間隔の長さを売りに、今後ホンダジェット以外への外販も拡大する方針だ。
一方のホンダジェットは今、試験機4機が全米各地を飛び回っている。70カ所の空港で2000時間を超える認定飛行試験を実施している。順調に試験を終えれば、15年1―3月に型式認定を取得する。
1号機の納入を前に、同州グリーンズボロ工場では量産14機の組み立てが進む。組み立て要員として13年に300人を採用し今後150人追加。納入開始の初年度は1ライン体制の年50機規模の生産で地ならしし、後に2ラインを稼働する。3年目からは同80―100機に引き上げて本格稼働する計画だ。
9月からは米国、カナダ、メキシコで体験フライトを展開し営業活動にも余念がない。ホンダエアクラフトの藤野道格社長は「拡販にはサービス体制がカギを握る」としており、工場に隣接してカスタマーサービスセンターも新設。納入初日からサービスが受けられる体制を整えている。
年80機販売の計画
世界のビジネスジェット市場は年700機程度。08年秋のリーマン・ショック前に約1300機のピークを迎え半減したが、過去20年で年5%成長した。今後も同程度の成長が見込まれ30年には1500機まで回復・拡大するという予測もある。
ホンダジェットはビジネスジェットの中でも小型に属する。現在の受注は100機以上で「将来的に年80機をコンスタントに販売する」(藤野社長)計画。米セスナとブラジルのエンブラエルの2強に切り込む。小型ビジネスジェットは、20年頃に年350機程度の市場になるとの試算がある。
一方、ビジネスジェット向けのエンジン市場規模は13年で1兆2000億円だった。米ウィリアムズ・インターナショナルとカナダのプラット・アンド・ホイットニー・カナダの2強体制。ホンダエアロはビジネスジェット向けエンジンで将来的にシェア3分の1を目指している。
ホンダの航空機事業の特徴は機体メーカーでありエンジンメーカーでもあること。機体とエンジンで製品の性格が異なることもあるが、販売面で不都合が生じる可能性があり、一方に専念するのが業界の慣行だ。
エンジンメーカーは取引を通して機体メーカーの機密情報に触れる。ホンダエアロの泉征彦社長は「同じホンダグループのホンダジェットに情報が漏れるのではないかと、他の機体メーカーの警戒がある。情報管理を徹底して顧客を納得させて商談を進めている」と話す。山本社長はこの点「大きな足かせにはならない」と楽観する。
というのもホンダは汎用機事業も手がける。汎用機事業では、ホンダは芝刈り機や耕運機メーカーであり、そうした汎用機に搭載するエンジンのメーカーでもある。競合する芝刈り機メーカーにもエンジンを供給し外販を拡大して成功を収めた実績がある。「汎用機と航空機はビジネスモデルが同じだから」(山本社長)というのがその根拠だ。
むしろ「HF120を搭載したホンダジェットの成功が、HF120の信頼につながり、HF120の外販につながる」と、本田技術研究所の藁谷篤邦取締役は話す。足かせでなくシナジーを追求する構えだ。
機体、エンジンの両事業とも20年ごろの単年度黒字化を目指している。唯一のエンジン・機体メーカーとしてどのような事業の軌跡を歩むかが注目される。
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